◆◆◆ 「最近、ラクスから通信入んないんだね」 消灯前の自由時間、ベッドに寝転がりながらラスティは制服を脱いでいるアスランに言った。 「あぁ、しばらくはそんな暇がないってこの間会った時に話したから」 今まではわりと頻繁に誘いの通信が入ってきていた。二人は婚約者なんだからそれが当たり前だとすっかり思っちゃってたから他人事なのになんか寂しく思ってしまう。 「なんで?まだ外宇宙での演習には二ヶ月もあるのに」 アカデミーの訓練も後半になればより実践に近くなり宇宙空間に長く滞在することになっている。そうなれば会うことができないのも納得できるけど。 「こんなことしていていいのかなと思って」 「こんなこと?」 バカが付くくらいに生真面目なアスランはアカデミーに身を置いているのに休日ごとに外出してラクスと会うことに罪悪感を感じているらしいのは知ってたけど。 「ラクスと会うのはアスランには大事な用事だろ。していいとかってそんなの当たり前じゃないの?」 デートくらい別にいいのにって思うのに。だってアスランは成績も一番なんだし。プラントの希望の星なんだし。デート姿を写真誌にでも撮られれば市民に喜ばれるネタの一つにもなるくらい人様の役に立つんだし。 「違うんだ」 短く、目を伏せてアスランは言った。普段は優しげで曖昧で優柔不断な口調なのにそれはやけにきっぱりとしていた。 「違うって?」 「そういう意味じゃないよ」 アスランはやっぱり頭が良すぎるのかもしれない。何を考えているのかどうもわかりそうにない気がしてきた。 「あのさぁ・・・」 何でもかんでもまじめに考える必要なんてないのに、とラスティが言おうとした先をアスランが攫った。 「ラスティは好きな人なんているのか」 「えぇっ、何突然・・・」 驚いたらアスランは慌てたように振り向いた。 「あ、ごめん。いいんだ、気にしないでくれ」 珍しい話題だ。しかもアスランから振ってくるなんて。 「全然いいよ。そりゃ俺だって好きな子くらいいるよ。残念ながら彼女じゃないけど」 「そうなのか」 驚いたアスランの顔なんて珍しい。ていうか俺のことなんだと思ってたんだろ。 「ずっと好きだったんだけど、アカデミーに入学決まったから何も言わなかったんだ。だから今でも片思いかな」 だって卒業したら戦争行っちゃうじゃん、オレたち。そう言うとアスランはなぜか驚いたような顔になった。 「どうしたの?」 別に当たり前のことを言っただけなのに。全然知らなかったみたいな顔をしてる。それが逆にラスティには不思議なくらいだ。 「あ、いや、そうだな・・・」 なんだかいつも以上にアスランは落ち着きがない。もしかしてラクス以外に好きな人でもできたのだろうか。だとしたら「こんなこと」の意味もわかるかもしれない。他に好きな人がいるのにデートしてたらそりゃアスラン的にはまずいだろう。ラクスは親が決めただけで別に好きとかそういうんじゃないみたいだけど、かといってそれをいいことにヤルことやっちゃうような悪い奴でもなくて。それなのにアスランは罪悪感を人一倍感じそうな奴だから。 「好きなら仕方がないんじゃない?」 「え・・・」 本気で驚いた顔をしてるアスランにラスティの方が驚いた顔になる。いつも何考えてるのかわかりにくいほどおとなしい奴なのに。そんなに驚くなんてやっぱり図星なんだな、とラスティはにっこりと笑う。 「好きな人ができたんでしょ、ラクス以外に」 かぁぁぁぁと赤くなる顔は嘘じゃないかと思うくらいに真っ赤だった。すげーわかりやすい。 「ら、ラスティ?!」 見事に裏返った声に噴き出し出しそうになるのを堪えながらもう一押し。 「それってアカデミーの生徒だよね?」 これはいわば鎌かけってやつ。だって今のアスランはアカデミーからほとんど出てないんだから好きな人ができるならそれ以外にありえないから。 そしてアスランは「狼狽」って言葉の見本みたいにあたふたとしてみせた。脱ぎかけのズボンを足に掛けたまま歩こうとして転びかけ、手をついたベッドのマットレスが端すぎて見事に滑って膝をつく。 「安心しなよ、誰にも言わないからさ」 その代わり、明後日のレポート手伝ってよ。そういうとアスランはまだ赤い顔を必死になって元に戻そうとしながらカクカクとロボットみたいに頷いてみせた。 誰にも言わないけど、探さないとも言ってないけどね。ラスティは心の中だけでぺろりと舌を出してみせた。 授業時間内で終わらせるというその課題はラッキーなことに得意分野だった。 だから結構早く終わってしまってなんとなくラスティは教室の中を見回してみた。カンニングなんてできる種類の問題じゃなかったから別にそれくらいしたって咎められるわけもない。 すると同じようにとっくに終わっているアスランが目に付いた。そしてアスランを観察してたら気がついてしまったのだ。 じーっと、でも気が付かれないくらいにでもさりげなく一人の生徒を見てる視線に。 その瞬間、ラスティは叫びそうになったのを何とか必死に抑えた。でも本当は誰かに言いたくて仕方がなくてバタバタと足を踏み鳴らしそうになった。だってそれはみんなが知ればアカデミーで最高のニュースに違いない相手だったから。 -9- |