アスランのジンは背中からライフルを受けた。幸いだったのは狙いが外れてど真ん中を撃たれなかったことだ。機体は派手に爆発したが損傷は大きくなかった。ただ駆動系と通信系をやられたために機体は制御不能となって崩れ落ち、応答ができなかったのだ。 飛び出したイザークはすぐさまアスランの機体に取り付いた。駆動をやられたせいかコクピットは閉じられたままでアスランが脱出した様子はない。緊急用のコックをひねってイザークは分厚い扉を押し開ける。電力が落ちて薄暗い小さな空間にアスランはいた。身動きはしないが操縦桿を握った手が僅かに動いて気を失っているのだということがわかる。 ぼろぼろと涙が零れた。 アスランの無事な姿を見たとたんにイザークのヘルメットの中は涙の洪水になった。透明な水滴が次々とブルーの瞳からあふれ出していく。それを止める気はなかったし、自分の気持ちを抑えることもできなかった。 コクピットの入り口に膝を突いた姿勢で手のひらをぎゅっと握る。そしてそのまま身を投げるようにその空間に飛び込むとアスランの体を強く抱きしめた。 「アスラン・・・っ」 このままこの少年を失うかもしれないと思ったとき、ディアッカの言葉が脳裏に響いた。 『本音出したらどうなんだよ』 自分の本当の気持ちは隠し続けていかないといけないのだと思っていた。これまでずっと周りの人間を偽り続けるためにはいくつもの嘘を重ねてきた。だけどそれは自分を守るための嘘でそこに罪悪感も後悔の気持ちもなかった。 けれど、アスランの機体が爆発して頭が真っ白になって初めて、自分の嘘を後悔した。自分が自分につき続けてきた嘘を、アスランへの態度を後悔していた。失ってしまったら二度と取り戻せないのだと思うと同時にそれが怖くなった。 自分は何もしていない。 アカデミーでアスランと出会った。ことごとく敵わないライバルの存在が自分を支えていたのだという事実。気に入らないけれど同時にそれはとても気になる存在だったのだという真実。 自分がアスランにキスをされて拒めなかったのは、もうあのときに自分はアスランが好きだったからだという告白も――。 何もしないまま卒業するなんてできない。 -30- |