「イザーク!」 後を追ってきたアスランはイザークに向けてだけチャンネルを開いて呼びかけた。 「アスラン・・・貴様、なぜ追ってくる」 「戻るんだ、それ以上行くと重力が」 モニターには危険を示すアラームが鳴り響いている。重力域が近づいてきてパイロットに離脱を促していた。 「黙れ!重力エリアのことは分かっている!貴様こそ来るんじゃない」 「君が戻らないのに俺だけ戻るわけにはいかない」 「関係ないだろうが」 アラームの間隔が短くなってきていよいよ注意が必要になってきている。敵主力の座標を確認しながらイザークは慎重にバーニアを吹かした。 「イザーク戻れ!」 「黙れ!」 イザークのうちには焦りがあった。アスランについて来られると無理をした意味がなくなってしまう。そうなれば本当にもう自分の負けになる。 「おとなしく引き下がれるわけないだろう!」 言うとアスランは無理矢理近づいてイザークの機体の腕を取った。 「何をするっ」 そのとき、二人のコクピットが同時にけたたましいアラームに包まれた。敵機にロックされたと示すモニターは自分達の死角から敵が出現したことを表していた。 「しま・・・っ」 「イザーク、危ないっ」 それはあってはならないアクシデントだった。 訓練の敵は現役の軍人がその役割を演じていた。使う銃火器のエネルギー量は規程されている、そのはずだった。 だが、アスランがイザークの機体を庇って飛び込みながら受けた攻撃は通常のエネルギー量だった。アスランの乗る練習用のモビルスーツはまばゆい光に包まれると同時に爆発した。 「あ、あ、あ・・・ッ」 目の前の光景にイザークは声がでない。そこへ酷いノイズの通信が入る。 「イザーク、よかっ・・・無事・・・な・・・・・・」 ザァァァ。 プライベートの回線はそれきり通じなかった。モニターの中には自分を庇った機体がガラガラと崩れていくのが見える。 小さな欠片が散っていた。キラキラとどこからかの光を受けて輝いている。それはとてもキレイでイザークは一瞬自分の置かれた状況を忘れていた。だがそれはほんの数秒だけですぐさま自分がするべきことを思い出す。考えるよりも先に体が動いていた。 「アスラン!」 発信のラインがやられていてもこちらからの声は届くかもしれない。そう思ってイザークの声は大きくなった。 「アスラン、無事なら返事をしろ!こっちに音は届かないからモニターか機体を動かしてもいい!とにかく・・・返事を・・・!」 だが反応はない。イザークは最悪の事態を思って呼吸が止まりそうになった。 (イザーク) かすかに声が聞こえた気がした。返信できないほどに通信系がやられているのだからそれは気のせいだったかもしれない。だがイザークには聞こえたのだ。自分の名を呼ぶアスランの声が。 「アスランッ!」 そして次の瞬間、イザークはハッチを開けてコックピットを飛び出していた。 -29- |