ぎこちなさはあの日からずっと続いていた。
 
 イザークがアスランを無視しているのは今までと変わらなかったが今度はアスランまでもがイザークから逃げるようになった。
 たとえばランチの食堂やトレーニングルームで。
 周りの生徒がイザークをどことなく避けているのと同じようにさりげなくアスランは席を外してしまう。その振る舞いは優秀なアスランらしく巧妙でほとんどの生徒たちには気付かれることがなかったが、「候補生」と一部から言われている成績優秀な一握りのメンバーには大きな違和感とともに見抜かれていた。
「どういうことなんですかね」
「さぁ」
 ニコルの言葉にディアッカも首を捻る。それにラスティも同調した。
「アスランまでおかしくなっちゃったしね」
 結局、ラスティはアスランから何も聞き出せないままだった。前日までと同じ調子で訊ねたのに、まるで別人のように相手にされなかった。いや、別人というよりは、以前の、そして一般的に思われているアスラン・ザラに戻っていしまっていたというほうが正しいのかも。わずかな感情すら押し隠して口数も少なくて。時間が経つにつれ不器用ながらにルームメイトに気を許してくれた人のいいアスランは共同生活の振り出しに戻ったみたいにそっけなかった。
 あの夜イザークと何かあったんだろうと推測はできたけれど、ラスティに深入りするつもりはなかった。レンアイなんてプライベートのうちの最もプライベートな部分だから、本人に話す気がないのなら根掘り葉掘り聞き出すのはルール違反だ。相談されれば応じるけれど無理やり聞くほどデリカシーが欠けてるわけでもない。
「煮詰まって変なことしなきゃいいけどね」
 ただ、友人として心配なのは本当だった。




「……はぁ」
 ベッドの上で仰向けになってアスランは盛大にため息をついた。ルームメイトのラスティはニコルのところに映画鑑賞にでかけている。
 今日のナイフ戦の授業は最悪だった。


「始めっ!」
 教官の合図でアスランは腰を落としてナイフを構えた。
 対戦相手はイザーク。カリキュラムの終盤に入っているために手にした武器はレプリカではなく正式のザフト兵士の携行品だ。鈍色の金属独特の光を返しながらイザークも同じように構えの姿勢になる。向かい合ってギリギリの距離を保ちながらどちらも一歩を踏み出せずにいた。
 苛立ちがアスランの内側に沸いてくる。
 できればイザークの顔を見たくなかった。しかも正面からなんて。モビルスーツ戦闘の授業やシミュレーションならば対戦相手と言っても顔を見なくて済むだけマシだ。だけど、白兵戦やナイフの授業となれば間近で顔を見ないわけにはいかない。授業以外で極力避けてはいてもこの状況ではそれもできやしない。きっとイザークも同じ気持ちだろう。
 チラチラとアスランの脳裏を掠めるのは目の前のイザークではなく数日前の、あの夜のイザークだった。







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