■ ■ ■ 夢を見た。 とても幸せな夢だった――。 自分の髪は今より少しだけ長くて肩に触れるくらいで。キャミソールにフワフワしたパフスリーブの白いシャツとフリルの付いたブルーのスカートを身に着けて、華奢なエナメルのサンダルを履いていた。手首にはラインストーンのブレスレットがキラキラとしていて、大きなピアスも目にチカチカと眩しかった。指先はきれいにネイルアートがしてあって、右の薬指にはシンプルなリングをしていた。襟元にはパールのネックレスとダイヤのプチネックレスを重ねていて、大きく開いた胸元には控えめなふくらみが覗いていた。 自分を呼ぶ声がして顔を上げると、こちらに向かって慌てて走ってくる少年がいた。 『アスラン!』 手を上げて声に出すとリングの贈り主はすぐ傍まで来てから顔の前で大きく両手を合わせて謝った。 『ごめん!』 土下座でもしそうな勢いにおかしくなって笑うと、弾んだ息を整えながら思い出したようにジーンズの後ろポケットに手を入れて、すっと顔の前に差し出してみせた。 『これ』 一輪のピンク色のガーベラ。 『ありがとう』 バラじゃないのがとても彼らしくてクスクスと笑いながらそれを受け取ると、ガーベラはくにゃりと途中から折れ曲がってしまった。 『あ・・・急いで走ってきたから・・・』 申し訳なさそうな顔を重ねてする少年にどこまでもらしいと笑うと、その花の茎を勢いよく途中で千切る。驚く顔を尻目に左耳に髪をかきあげるとそこにその花を挿して見せた。 『似合うか?』 『あ・・・うん』 見る見る顔が真っ赤になるのがおかしくてまた笑うと、ぼけっとたっている少年の腕を強引にとって腕を組んだ。 『今日はスペースコースター10回制覇するからな!』 『え・・・』 スペースコースターはこのテーマパークの一番の売り物だから、それに乗りたくてここをリクエストしたのだ。 『何?怖いのか?』 『いや、違うけど』 モビルスーツに乗っている人間がジェットコースターを怖いなんてあるはずないってわかっていてもつい聞いてしまう。 『なら行こう』 どこかしどろもどろな手を無理やりに引っ張ってにぎやかなエントランスゲートをくぐるとテーマパークのキャラクターがカラフルな風船を渡してくれた。 それを手に甘いものが食べたいと、ソフトクリームを片手に二人で半分こしながらガイドマップを覗き込んで効率のいい回り方についてあれこれ言ってみたら、やっぱりアスランはスペースコースターをどうしても避けようとしているのがわかって脇腹をつついて見るとしどろもどろになった。しばらく歩いてヒールに少し疲れて休みたいといえばベンチにさりげなくハンカチを敷いてくれた。 歩くときはいつも手を握っていて、それを黙って腕に替えると少し驚いたような表情をしてから彼はにっこりと笑った。 夢の中で自分はとても幸せなオンナの子だった。 -20- |