■ ■ ■

 顔を合わせたのは最終編成チームのメンバーとして搭乗した艦の居住区だった。
 2つ目の宙域からシャトルに乗って指定された訓練用の戦艦に分かれるのだが、三度目となる流れ作業のような乗艦、下艦、居住区の部屋割り指示を受けて移動をしていたイザークは目的地である自分の部屋の前で見たことある後姿を見つけた。まさか、と思うまもなくその少年が気配に気づいて振り返り、同じような顔になる。
「イザーク」
 紺色の髪のアスラン・ザラはそれ以上何も言わずにただイザークのために入り口を開けて自分は部屋の中へ踏み込んだ。
「どちらか希望があるなら好きなほうを選んでくれて構わない」
 二人部屋はスペースが左右に分けられた作りになっている。右か左かということにこだわる人間はこだわるものだからこだわりのないアスランは早い者勝ちとなるところをイザークに譲ったわけだ。そのイザークは無言のまま手にした荷物を左側のベッドへ置いた。それを見てアスランは右側のデスクに同じ支給品のバッグを置く。イザークが何も言わないことにアスランも何も言わなかった。
「成績順だとは聞いてたけど、同じチームになるとは思わなかったな」
 訓練の間ずっと身を置く戦艦の部屋割りは機械的にそのチームの成績順に組まれるというのはこれまで2つのチームを経験していてわかることだ。そしてアスランとイザークが同じチームならば全体成績で主席と次席の二人が同じ部屋になるのは当然のなりゆきで特別に驚くことでもない。
 だが二人はやはりぎこちなかった。声を聞くのはこの訓練の出発の日以来で、それももう2週間前のことだから同じ寮に暮らすようになってからは初めてといっていいほど互いの声を聞かなかったことになる。
「先に言っておく。俺がシャワーを使うときには一切近づくな。それを守らないときには貴様をぶちのめす」
 唐突な申し出にアスランは驚きつつも頷いた。ルームメイトといっても最低限のプライバシーはあり、シャワーを邪魔するつもりはアスランにだってない。それにしてもぶちのめすなんて言われるのは気持ちのいいものじゃなかったけれど。
「わかったよ」
 それはプライバシーへの立ち入りをきっぱりと拒否する宣言のようなもので、短い共同生活の先行きを暗示しているような穏やかじゃない約束だった。
 
 戦艦の居室なんて寝られれば用は足りるものだとイザークは思っていた。戦闘の合間に体を休めることさえできればルームメイトが誰であろうと関係ないというくらいにしか考えていなかったのだが、それが間違いだったことにこの期に及んで思い知らされることになった。訓練の最終段階になってルームメイトがアスランだなんて!しかも以前のただムカつくだけのアスランじゃない。自分のことを好きだと言ったアスランなのだ。
 けれども忙しさもあったがそれ以上の理由で二人は部屋での会話はなかった。待機のときにはアスランはレクルームにいることが多かったしイザークは自分の搭乗機の整備のために必要以上にMSデッキに姿を現していて、ギリギリまで部屋に近づかずに本当に寝るときだけ部屋に戻るという状況だった。それはイザークにしてみれば自分の抱える秘密を守るための緊張とアスランとの同室という二重の緊張がずっと続くことを意味していた。





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