自嘲気味に言うアスランにラスティは何だか腹が立った。
「何だよ、それ!好きになるのに意味がないって・・・。じゃあアスランは意味のないことは何もしないわけ? ていうか、好きになったってことに意味があるんじゃないの?」
 アスランは何でもできちゃうから意味があるとかないとか、価値があるとかないとか、そういう基準だけでしか物事を量れないのだろうか。だとしたらそれは人としてとっても寂しいと思う。
「好きになったことに意味・・・?」
「そうだよ!好きになるってことは自分の感情が動かされたってことでしょ?それってすごい意味があることじゃん。自分の気持ちなのに人に動かされるなんてそれだけ相手が自分にとってはすごい大事だってことでしょ!それが意味ないなんて、だったらアスランは感情のないロボットと変わらないってこと?違うでしょ」
 捲くし立てられてアスランはあっけに取られていた。普段は明るくて無邪気なラスティの知らない一面を見て驚いてしまったのだ。
「・・・あ、ごめん。ちょっとアツかった? ははは、オレ、これでも大失恋したことあるからさー」
 いつもの調子を取り戻してバツが悪そうにラスティがもう一口ドリンクを飲んだ。
「あ、いや・・・思ってもないことだったからちょっと驚いて・・・。そうか、そういう考え方もあるのか」
 怒ったというわけでもなくアスランは言った。
「別に気にしないでいいよ。アスランにはアスランの事情があるんだし」
「それはそうだけど・・・」
 ようやくラスティにもらったドリンクを開けてボトルに口をつける。明日までの課題をやるためにラスティは机の前に座った。
「これって簡単?」
 問題を見る前にラスティは聞いてくる。それはいつもの会話で苦笑しながらアスランは「まぁまぁ」と答えた。アスランの「まぁまぁ」はラスティにとっては「そこそこ厄介」ということを意味している。慌てて飛びついて始めるラスティの姿を眺めながらアスランの頭の中ではラスティの言葉がぐるぐると回っていた。
「ちょっとラウンジに行って来る。点呼までには戻るから」
 そういって席を立つ。
『好きになることに意味がある』
 だとしたら自分とラクスの婚約は意味がないということだろうか。政治的な意味を除けば、自分たちにとっては親同士が交わした約束というだけで少なくともアスランには何の意味もないように思えた。
 ラクスが嫌いといわけではないけれど、好きかといわれればよくわからない。婚約者なのだから当たり前に会う約束をして花束や贈り物をしてきたけれど、会いたいと思ったことがあったのだろうかと思うと一度もなかった気がする。自分で呆れてしまうくらい自分の中で婚約者の意味などたいしたことなかったのだ。だからそんな自分が結婚するのは間違っているんじゃないだろうか。それに自分が好きなのはラクスではなくて・・、イザークなのだから。他に好きな人がいる相手と結婚するなんてラクスに対して失礼なのは間違いない。そうやって考えてみるとこの結婚はしてはいけない気がしてきた。誰のためにも間違った結婚なんて・・・。
「破棄、できないわけじゃない・・・」
 一人廊下を歩きながらアスランはポツリと呟いていた。







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