話は数日前に遡る。

 アスランに通信が入った。相手はもちろんラクス・クライン。デートをしたら数日後にはお礼といって連絡が入るのもいつものことでアスランはいつもと変わらず適当に会話をしたら終わりだろうと思っていたがその日ばかりは違っていた。
「お話はお聞きになりまして?」
 画面の向こうでラクスが問いかけた。何のことだろうと皆目見当も付かずに「いえ」とアスランがいうとラクスは無邪気に自分の婚約者に向かって言った。
「私たちの結婚の日取りが決まったそうですわ」
 まるでいつものようにコンサートの日程を教えるようなごく普通の言い方だった。
「え・・・結婚・・・」
 目を白黒させていたという自覚はある。だがあまりにも突然の言葉にアスランはいつものように何事もないフリをするのこ忘れてしまっていた。
「父が言っていましたの。アスランのお父上がおっしゃったそうですわ。少しでも早く私たちが結婚した方がプラントにとってはいいことだからと」
 寝耳に水もいいところだった。だいたい父親からの連絡なんて何もない。考えてみれば婚約の話だって突然だったから父はそれと同じつもりなのかもしれないが、婚約者同士だといっても自分たちはまだ十代の前半で、結婚はずっと先の話だと思っていたから、アスランにしてもればそんな馬鹿なというくらいの驚きだったのだ。
「いえ・・・父は何も・・・、それで日取りというのはいつなんですか」
 随分間の抜けた質問だろう。自分の結婚の日取りをまるで友人の結婚式の日にちを確かめるような口調で聞いているのだから。しかも婚約者相手に。
「そこまではまだわかりませんわ。でも貴方が卒業するよりも早くなるようなお話でした。配属が決まってしまうといろいろと面倒だからと言って。本当にご存知ありませんでしたの?」
「すみません・・・」
 それを言うのが精一杯というのがアスランの正直な心情だった。卒業よりも前にというのならもう何ヶ月も残ってはいない。そんな大事なことなのにいつものように事後に命令する形で父親は告げるつもりだったのだろう。そう思うと自分のことが歯がゆかった。
「知らせてくださってありがとうございました。自分のほうでも確かめてみます」
 そういうとアスランは通信を切った。
 どうしよう。どうしたらいいのだろう。このままでは結婚の話は本当になってしまう。いや、もともと婚約しているのだから結婚するのは間違いなかったのだけれど、もっと先のことだと思っていた。だから全然現実のものとは思っていなくて、ラクスも恋愛の対象ですらなくて。だから――。
「あれ、もう話終わったの?」
 廊下へのドアが開いてラスティがドリンクを手に帰ってきた。
「あぁうん・・・」
「ほいっ」
 いつも以上に気落ちしている様子に気を利かせてアスランの分も買ってきたドリンクを投げてやった。
「ありがとう」
 手にしたボトルを受け取ったまま握ってアスランはベッドに腰掛ける。
「なんかあった?」
 ラクスとの通信を終えると毎回疲れてしまうらしい。それはアスランがとても気を遣っているからなのだというのは何度も通信しているときに同じ部屋にいたラスティにはわかったけれど、最近の疲れはそれだけじゃなんだと思う。だってアスランはラクス以外に好きな人ができちゃったんだから。
「俺でよかったら話聞くけど?」
 あの日以来アスランはあまり自分のことを話してくれなくなっていた。だからきっと今日も話すつもりはないだろうけど声だけはかけたのだ。
「うん・・・いや、なんでもないよ」
「そう」
 プシュッと栓を開けるとラスティは炭酸飲料をごくごくと飲む。
「そういえばアスランさ、好きな人とはどうなった?」
 不意打ちのように聞いてしまったけどアスランは動じなかった。
「別に何もないよ」
「そうなんだ」
 じゃあ告白は失敗だったということなんだろうな。やっぱりイザーク相手じゃね・・・。ラスティがそんなことを思っていると意外なことにアスランが話を続けた。
「俺に好きな人なんていたところで意味なんてないんだよ」
「意味?」
「好きになったってどうしようもできないんだから、好きになる意味なんてないだろう」





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