「これがどうしたというんだ」
「最近の、よく見なよ」
　ディアッカの言葉に注視しているとやがて表れたのはバグを示す大量の赤い文字。
「･･･」
　言葉もなく、それから目を離せない俺にディアッカは説明する。
「いつもイザークはメカニック任せにしないだろ、自分で見るって。でも担当者は念のためにその後でチェックしてんだよ、それが奴らの仕事だからな。そしたらここ数日バグに気づかないままなのが続いてるっていうんで、オレに相談してきたんだよ」
　空いてるソファに座りながら、ディアッカは俺をみた。これを伝えるために俺が一人になるのを待っていたということらしい。

「休暇、取ったら？」
　不意にディアッカは言った。
「俺に休めというのか」
　ようやく画面を閉じて聞き返す。
「だって、半年以上休みとってないだろ、イザークは。半休がせいぜいで」
　それは咎めるような口調だった。
「忙しいんだから仕方がないし、休みなんて必要もない」
　チェアを回転させて背を向けると、キィッとすべりの悪い金属の音が響いた。
「どこかだよ。こんなバグだらけのMSで戦闘にでも出てもろよ。イザークだけじゃなく、味方にだって損失出るぜ」
　
　ディアッカの指摘は正しかった。それだけに反論できない。
　本当は休みたくなかったのだ。
　一人でいる時間の孤独に耐えられなくなりそうで。だから常に人のいる職場にいるようにしていたのだ。

「これ、明日のだから、時間間違えんなよ」
　いつの間にかソファを立ったディアッカは俺のデスクに　何かを置いた。
　確かめるために振り向くとそれはシャトルのチケット。
　行き先は･･････「オーブ」。

「何だ、これは？！」
　それを握り締めて問いただす。
「何ってチケットだよ、見りゃわかるだろ」
「そういう問題じゃないっ」
　立ち上がるとディアッカは肩を竦めてみせた。
「ジュール隊長は明日から一週間の休暇、ってことになってるから」
「なっ･･･」
「申請は通ってるし、シホちゃんも知ってるよ」

　さっきのシホの言葉が蘇る。
『無理なさらないでくださいね』
　あれはこういうことだったのか、とイザークは内心舌打ちした。
「勝手なことを！」
　副官という立場を利用してディアッカは万事手はずを整えたということらしい。
「オレもシホちゃんもまだイザークには死んでほしくないんでね。たまには休めよ」
「だからって何でオーブなんかに･･･」
「アレックスだっけ？　顔見てくればいいじゃん。偽名なんか使っちゃって、何してるんだか知らないけど、アイツに怒鳴ってやれるのはイザークだけなんだし」
　ウインクなんかして事も無げにディアッカは言う。
「そんなこと･･･」
　できるか、と続ける前にディアッカは遮った。
「あ、それ無駄にするなよ。取るの大変だったんだから。顔見る気なくても観光だけでもしてきたら？　遺跡とか見てみたいって言ってただろ、お前･･･」

　それだけを言い残すとディアッカは「お土産よろしく！」と部屋を出ていった。

「休暇･･･？俺がオーブに？」
　予想もしない突然与えられた休息に、俺は混乱しながら呟いていた。






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