「で、相談って?」
ラウンジの隅でコーヒーを差し出したアスランに、ソファに深く腰掛けたディアッカが言った。
「いや、その・・・」
アカデミーの恋愛経験ナンバーワンであるディアッカに訊いたらどうですか? というニコルの薦めにすぐさま内線でディアッカを呼び出したアスランだったが、よく考えればディアッカはイザークの一番身近な人間なのだ。いくらなんでもディアッカに相談なんてするべきじゃない、と気がついたのは先に着いたラウンジでやってきたディアッカの姿を見たときで、やっぱりやめるなどと言い出すこともできない状況だった。
珍しく自分なんかを呼び出したくせに、用件を言い出そうとしないアスランを訝しいと思いながらディアッカは元来のキャラクターでアスランをからかう。
「改まって相談なんかされても、自分より優秀な人間に教えることなんてないぜ? オレがお前より自信あるのって言ったら恋愛経験くらいだし」
まさかアスランが恋愛相談なんてするはずないと思っているディアッカの言葉に、アスランは予想外に飛びついた。
「そう! そうなんだ!! ディアッカならいろいろ経験あるから相談に乗ってもらうといいってニコルが言うから!」
がしっと両肩をつかまれて、見掛けに似合わない馬鹿力でガクガクと体を大きく前後に揺さぶられヘッドバンギング状態になりながらディアッカはあっけにとられつつ目の前の紺色の髪の少年を見た。
「あ、え? なに、マジで恋愛相談ってわけ?」
ディアッカの問いかけに今度は自分自身の頭が取れて落ちるんじゃないかと思うくらいにアスランは激しく首を上下にして頷いた。
ディアッカの目はパチパチと瞬かれる。
「頼む、相談に乗ってもらえないか?」
覚悟を決めたアスランが、まるで彼氏いない暦30年の男がやっと捕まえた彼女にプロポーズしてるみたいな真剣な顔をして頼み込んでくるのを茶化して笑うほどにはディアッカは悪いやつじゃなかった。
「とりあえず、関係を今より悪くするような言動はしないほうがいいぜ。お前みたいな慣れてないやつは結果を急ぎすぎて失敗するのがオチだから、あせらないことが肝心だな」
ディアッカの言葉にアスランは頷きながらも、訊いてみたかったことを口にする。
「やっぱり挨拶くらいはした方がいいんだろうか?」
思いもしなかったその内容にディアッカはしみじみと真面目の塊みたいな同級生を覗き込んだ。
「まさか、挨拶もしないわけ? だってお前ら婚約者だろ?」
その言葉にアスランは内心焦りまくった。
そうだ、自分にはラクス・クラインという婚約者がいるのだった。事情を知らないディアッカにしてみたら、アスランが恋愛する相手は婚約者だと思うのは当然だった。それだけに鋭い突っ込みにアスランは一瞬言葉に詰まる。
「え、いや、その・・・」
しどろもどろになるプラントの希望の星の姿に、伊達に場数を踏んでない遊び人はピンときた。
「そうだよな、婚約者なんて親同士が決めた話だもんな。それ以外に好きな子ができたって仕方ないよな。誰にも言わないから安心しろよ」
事情を察してくれたらしいディアッカの勘のよさに感謝しながらアスランはほっと胸をなでおろす。
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