アスランの正体は、ただのヘタレ野郎だった。

 そう気がついてしまったニコルは、今までの純粋な憧れの気持ちを返してくれと言いたくなった。穏やかで優しいプラントの希望の星という姿は、アスランがその環境から求められて演じていた「パトリック・ザラの息子」でしかなかったということらしい。仕方なく求められるままに応えてきたのだと思うとさすがに同情の気持ちも沸いてきたから何も言わないで今までどおりに付き合っているのだが、それにしてもあまりのヘタレっぷりについつい口調も毒を含んでしまう。

 表面的には普通のアスランに戻ってみせたものの、事情を知られたニコルとラスティにはもはやヘタレを隠そうともしなかった。いや、むしろ相談という形をとりながら日々ヘタレが悪化しているの否応なく見せ付けられているのかもしれない。

 目の前でアスランがイザークからポイントを奪取した。残り時間はほとんどなく、アスランの勝利が確定する。イザークがまたいつもと同じように悔しそうな顔を隠そうともせず、一方でアスランはいつものとおりにそんなイザークを気に留める様子もない。
 だが、それを見ながらニコルはこの後で聞かされるであろうアスランの弱音を思って深くため息をついた。



「見ただろう? イザークの顔。昨日のチェスでも俺が勝ったからそうじゃなくても不機嫌だったのに・・・。あぁ!もう嫌われちゃったんじゃないかな、どうしよう・・・」

 部屋のベッドに座って両手で頭を抱えているアスランに、ニコルは踵落としを食らわせたい心境だった。こういうことになってからまだ3日だというのに、もういい加減に勘弁してほしいとどれほど思ったかわからない。ラスティは交友関係が広く、アスランとも仲はいいのだがいつも一緒というわけではないので、自然とニコルばかりが聞き役になっていた。
 どうにかしなくちゃこっちの身が持たない、とアスランの呟きをまったく耳に入れずに考えていたニコルは、あることを思いついてアスランを向いた。


「そうだ、アスラン! 僕以外からのアドバイスも聞いてみたらどうですか? いろんな人の意見を訊いてみたらアスランの納得いく答えが見つかるかもしれないですよ」

 うまくすればこのヘタレから解放される、そう思っていることはおくびにも出さずにニコルは言い、アスランもぱっと顔を明るくしてニコルを見た。

「そうか、そうだな。情報は多いほうがいいからな」

 まんまとそれに乗せられた主席の少年にニコルは合わせて頷く。

「そうですよ!」
「でも、訊くって言っても誰に訊けばいいんだろう・・・」

 首をかしげるアスランにニコルはここぞとばかりに一人の少年の名前を挙げた。













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