アスラン・ザラはやっぱりアスラン・ザラだった、というのがニコルとラスティの出したこの数日における検討の結論だった。

 アスランが額に派手な痣を作ってから3日。
 ニコルが指摘した「アスランの恋」が発覚した直後のあまりのヘタレぶりにどうなっちゃうのだろうかと思った二人だったが、その心配は見事に裏切られた。

 腐ってもアスラン・ザラ。
 生まれたときから人に見られてきたアスランにとって、自分がどう見られるのかというのは彼の人生においてとても重要なことだった。だから、その姿に落ち度や欠点があるとわかればそれを修正することは容易く、自分が普通じゃないということを自覚した時点で以前のように周囲が心配になるような、彼らしくないミスは一切しなくなったのだ。
 アスランは傍から見れば元のアスランに戻った。


 ------そう、表面的には。



「ニコル、いいのかな、本当に…」

 不安そうな表情を浮かべてアスランが訊いた。

「いいんですって言ってるでしょう? 何回訊けば気が済むんですか?さっきから5回目ですよ」

 うんざりした口調でニコルの返答はにべもない。
 次の授業---白兵戦のための格闘術---を前にアスランはさっきからずっと落ち着かなかった。その理由こそがニコルを辟易させている原因だった。

「でも、またイザークに勝っちゃったら、きっと不機嫌になるだろう・・・」

 それは嫌だなぁと気弱な台詞をぼそりと漏らしたアスランに鶯色の髪の少年はいい加減にしてくれとばかりに歩く速度が速くなる。

「そうじゃないほうがよっぽど印象が悪いんです。いきなりわざと負けたりしたら不機嫌どころじゃ済まなくなるのがわからないんですか?!」

 口調も激しくニコルは年上のアスランを叱りつけた。けれどアスランはまるで堪えていない。

「ワザとだって気づかれないくらいにはできるし…」

 そういう問題じゃないんだ、と殴りつけたい気持ちをぐっと堪えてニコルは同じ速度で歩いているアスランを見上げて立ち止まった。

「いいですか! 今までどおり、っていうのが一番大事なんです。それが崩れたらどうなっちゃうのかなんて僕にだってわからないんですから。現状維持に努めること! それこそが最優先です」

 ぴしり、と鼻先に指を突きつけられたその勢いにさすがのアスランも渋々と頷く。

「わかったよ・・・」













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