「野菜ならわかるんだけど・・・好きな花って言ってもな」
「野菜?!」
突拍子もない言葉にイザークは鸚鵡返しになった。
「ああ、俺の母親は農学者で野菜の研究をしてたんだ、だから野菜ならわかるんだけど」
「貴様らしい話だな」
あきれたように言うとイザークは車を降りる。そして一人で花屋に入るとあっという間に大きな花束を手に店を出てきた。それは白をベースにしてところどころに青というよりは藍色の花が入っているブーケだった。それを窓からアスランに寄越して自分はまた運転席に戻る。
「で、場所はどこだ」
「ユニウスセブンのメモリアルパーク」
短い返答にイザークは気まずそうな顔をした。アスランの母親がユニウスセブンで犠牲になったというのはいつか聞いたことがあったのだ。うっかりとそれを忘れていてまずいことを言わせてしまったと思ったらアスランが小さく笑った。
「気にすることないよ」
表情の豊かなイザークの考えがすぐにわかって逆にアスランは嬉しかった。感情に素直なイザークは誰より人の感情というものに敏感なのかもしれない。他人に興味の薄い自分とは違って。
まもなくエレカはユニウスセブンのメモリアルパークに到着した。メモリアルパークという名前がついてはいるがそこは広大な墓地だった。『血のユニウスセブン』の犠牲者たちが眠っているが、誰一人として墓碑の下に眠っていることはない場所だ。
花束を手にアスランの後ろをついて歩くイザークは何も言わなかった。そして『レノア・ザラ』と書かれた石の前でアスランは立ち止まる。イザークはそのまま花束を手向けると控えめに手を合わせる。アスランもこの墓ができて以来の訪問に長く手を合わせていた。
イザークがこうして無理やりにでも連れてきてくれなかったらここへくることすら思いつかなかった。ZAFTに入ったのは母親のことがあったからなのに、墓参りをすることも思いつかないなんて自分はずいぶん冷たい人間なのかもしれない。
「この花束・・・」
立ち上がったアスランがイザークに声をかけた。そっと置かれた花束は白にあわせる色がピンクや黄色といったありがちな色合いじゃなく青が使われているのが新鮮だったのだ。
「貴様は母親に似ているという話だったからな、貴様のイメージを店員に伝えたらこうなった。なんだ気に入らないのか?」
視線で尋ねたいことを理解したイザークは先回りして説明してやる。それにアスランは首を振ると嬉しそうに目を細めた。
「いや・・・ありがとう、確かに母のイメージに近いよ。けど意外だな。イザークには俺がこんな風に思えるんだ?」
清楚で柔らかな白い花の中にも凛とした濃い青が力強さを感じさせる。墓石の上に置かれた花をもう一度見てアスランが言うとイザークは慌てて横を向いた。
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