「あぁそうか。いつもベッドでのイザークには言ってるね、そういえば」
「ば、馬鹿っ、誰かに聞かれたらっ」
アスランの口を両手で塞ごうとするイザークを軽く交わすとその両手を押さえ込んで唇を頬に押し付ける。それはほんの一瞬の出来事だった。
「なっ」
「どうかした?」
くすくすと楽しそうに笑いながら何もなかったかのように振舞うアスランにイザークは振り上げた拳をしぶしぶと引っ込める。シーゲル・クラインの誕生パーティで娘の婚約者を殴りつけるなんて醜聞を起こすわけにはいかないと優秀な理性が働いた結果だった。
「ねぇイザーク」
ドリンクを乗せたトレイを持ったボーイを呼び止めるとアスランはシャンパンの入ったグラスを二つ取り上げた。
そしてまだむっとしたまま振り返るイザークに泡のはじけるグラスを差し出してにっこりと笑う。
「なんだ」
「いま、ものすごく君のことを抱きしめたいって思ってるんだけど」
人工の月の光が降り注ぐベランダに立つイザークは、まるで月の精霊か女神のようにキレイだった。銀色の髪とシルクを思わせる白磁の肌と。着ているものまで月光の授け物のように輝いている。そのくせ、赤みの差した頬とほんのりと赤く濡れた唇は、情事のときのイザークを思い出させてやけに艶かしい。
「ばっ、バカ言うな!!」
「ばかじゃないよ。こんな風なイザークは滅多に見られないだろう?それをみすみす見逃すなんて勿体無いことできるわけないじゃないか」
「勿体無いって、貴様何言ってっ」
わなわなと震える手で握るグラスを取り上げてにっこりとアスランは笑う。
「じゃぁ、リクエストしたらいつでもそういう格好してくれる?」
「そんなことできるか!」
即答に再びアスランは笑うと手にしていたグラスをベランダの手すりにそっと置く。それを見ていたイザークは一瞬の隙を突かれ、アスランに手をとられてしまった。
「アスランっ?!」
答えるより早くアスランはひらりと手すりを越えてその外側に足をかけ、イザークを振り返る。
「この前の野外訓練で俺より成績よかったよね?」
数日前、ロッククライミングの場面でイザークは辛くもアスランに勝ったのだ。
「それがどうした?」
腕を握られたまま問われたイザークは困惑のままに訊く。
「なら簡単だろう?」
言うと同時にその腕を強く引き上げ、バランスを崩した体が手すりから大きく乗り出した。
「な…っ」
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