「それより、その服すごくよく似合うね」
イザークが着ているのはフロックコートと呼ばれる礼服の一種だった。銀色のシルクの生地は光によっては水色にも見える変わり織りを使っているらしく、イザーク以外の誰にも着ることを許さないような似合いっぷりだった。
実はアスランも声をかける相当前にその存在には気がついていたのだが、あまりに似合いすぎて人目を引くほどに麗しい存在だったために、見惚れて、そして人目を気にしてなかなか声をかけられなかったのだ。ベランダに出て行ったのを確認してようやく追いかけて名前を呼ぶ事が出来たほどだった。
「こんな服を着るのはずいぶん久しぶりなんだがな。いつのまにか母上が張り切って新調していたんだ」
着慣れている、とアスランは思う。見るからに育ちのよさが感じられて、そしてそれが自然なのだ。自分なんかは社交的な場は苦手だからと敬遠ばかりしてきていたから、どうにも落ち着かないのだが、イザークも、そして幼馴染であるディアッカも当たり前にように振舞っているのがわかる。
「俺なんてタキシード着るのも慣れないのに、そういうのを当たり前に着こなしちゃうんだから…。それにやっぱりイザークは綺麗だよね」
濃紺のタキシードを着ているアスランもそれなりに人目を引いているのだが、本人にその自覚は微塵もない。
そしてそんなアスランの素直な感嘆の言葉はイザークの背中に受け止められる。
「どうしたの? 俺なんか悪いこと言った?」
くるり、と背中を向けられたアスランは戸惑った声をあげる。さっきまでは間違いなく上機嫌だったと思ったのに。
「イザーク?」
ベランダの手すりにもたれるようにして階下の庭を見下ろしているイザークを覗き込むようにして見れば、その耳はほんのりと赤い。
「き、貴様が変なことを言うから…!」
「変なこと?」
特別何かを言った覚えはないのに、イザークの必要以上の反応になおさらアスランは戸惑った。
「綺麗、とかって普通の顔して言うな!」
きょとん、とした顔でアスランはイザークをみて、そして笑った。
「なんだ、そんなこと」
「そんなことじゃない! 貴様が俺に向かって綺麗なんて言うのはいつも…っ」
かぁぁっと真っ赤な顔をしたイザークは慌てて言葉を飲み込んだ。それにぴんと来たアスランは意地悪く笑う。
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