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 さっきのイザークの顔が忘れられない。

 アスランは寮の自室、自分の机で頬杖をついて授業中の出来事を思い出していた。

 MSの模擬戦の授業でアスランとイザークは対戦し、アスランがぎりぎりのところでポイントを奪取し勝利した。決定的なダメージを与えられなかったのは相手がイザークだからで、それ以外の相手ならばポイントではなく戦闘不能、つまりノックアウトにしていた。それはイザークも同じことでアスランとの対戦以外は数分で相手を動けなくしていた。
 それだけに。
 アスランに負けてイザークの悔しさは半端じゃなかった。対戦を終了し、コックピットのハッチを開けて床に降りてくるとイザークはアスランをにらみつけた。悔しそうに顔を真っ赤にさせながら、激しい憎しみをあらわにして。
 それを受け止めてアスランは何も言うことができなかった。
 あんな顔をさせたいわけじゃないのに。

 いつもそうだ。

 イザークが自分に見せる顔は対立する相手にみせる憎しみに近い表情ばかりで、穏やかな表情などみせることがない。そうしたいと思ってるわけじゃない。むしろイザークの穏やかな表情を自分に向けて欲しいとさえ思っている。ディアッカの隣にいるときはまるで別人のように優しく柔らかい表情をしていて、それがイザークにはふさわしく思えるからディアッカをうらやましいとさえ思うくらいに。

 イザークをきちんと見たのはアカデミーの入校式が最初だった。成績順の席次でアスランの隣はイザークだった。親同士が議員という間柄でお互いのことを知らないわけじゃなかったけれど、幼いころを除けばきちんと会ったのはそのときが初めてで、自分の隣に座ったひどく綺麗な顔をした少年をまじまじと眺めてしまったのだ。そのときすでにイザークの自分に対する顔は厳しかった。今思えば主席を奪った存在を快く思っていなかったということなのだろうけれど、そんな理由はまだわからなくてどうしてこんな顔をされるんだろうと謎だらけだった。
 だからその謎を解明したくて気がつけばいつも彼を目で追っていた。それなのにイザークはいつも自分を無視し続けるので、なおさらに彼に気にかけられない自分が堪らなくてイザークばかりを心の中で追いかけていた。

「ディアッカになれたらな…」

 ディアッカのようにいつもそばにいていつも笑ってるイザークを見ていたら、どんなにアカデミーでの生活は楽しくなるだろうと最近はそんなことばかりを考えている。ありえないことだとは思っていても、あまりにもディアッカへの態度と自分への態度が違うものだから、ついそんなことを思ってしまうのだ。自分がアスラン・ザラという立場じゃなかったら、イザークの笑顔は自分に向いていたかもしれないと思うと、この「アスラン・ザラ」という名前が恨めしくさえ思えてくる。
 はぁぁ、と大きくため息をついてアスランは藍色の髪をいらいらと掻き毟った。頭の中にはイザークの眼差しが繰り返しフラッシュバックしている。忘れたいのに忘れられない。どんなきつい表情であっても、自分に向けられたイザークの顔はひとつだって忘れることなどできそうにもなかった。
 気を取り直し、作りかけだったハロのことを思い出してコンテナボックスの中にある部品ごとデスクの引き出しから取り出して作業に取り掛かる。

 そして、ぼそりと口から出た無意識を言葉を耳ざとく聞きとがめた存在がいるのにアスランは気づいていなかった。











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