すぐ目の前で言葉もなく首を左右に振るイザークはひどく頼りなく見えた。
「ずっときみに説明をしようと思っていたけど、会ったら・・・顔を見たら離れたくなくなる気がして・・・」
だから連絡すら取れなかったのだ、と。
翡翠の瞳を向けたアスランにイザークは何も言えなかった。
「・・・腰抜けが・・・」
やっと出たのはそんな言葉。
確かに自分は腰抜けなのかもしれない、と小さく口の端だけで無器用に笑って、アスランはイザークの手をとるとその体を引き寄せて腕の中に抱きしめた。
温かい、少しだけ低い体温が洋服越しに伝わって、アスランは目を閉じる。
ずっと会えなかった・・・いや、会わなかったぬくもり。
あれほど抱きしめたいと思っていた存在は、手にすると記憶よりもずっと細かった。自分を抱きしめて返す腕は緩くまとわりつく。
「痩せた・・・?」
「貴様と違ってこっちは忙しいんだ」
否定はせず腕の中で悪態をつくイザークに不思議と笑みがこみ上げる。
会ったら離れられなくなると思った。
実際、離したくはない。
できることならこのまま連れ去ってしまいたい。
けれど。
「ザフトに残るんだろう?」
顔を上げて尋ねると、秀麗な形の眉が顰められた。
「当たり前だ、軍上層部が総崩れの状況でそれに知らん顔するなどできるか。少なくともプラントが落ち着くまでは今のままだ」
予想するまでもない答え。イザークの意思は強く、決意は絶対だった。
「君がいれば、ザフトは安泰だな」
褒めるように微笑むと更に眉が傾く。
「ふん、貴様に言われても嬉しくなどない」
「オーブに来る気なんて・・・」
「あるわけないだろうがっ」
本気じゃない振りをして誘った言葉を強く遮ったイザークは、やっぱりイザークだった。
「わかってるけど・・・」
それでも言ってみたかったのだ、とすぐ目の前のブルーの瞳に訴える。
傾いだ頬に手を添えて、唇を重ねると目を閉じる寸前にかすかに震える銀色の睫毛が見えた。目蓋の下で彼は何を思っているのだろうか・・・。そう思いながらもう一度ぎゅっと体を抱きしめる。
「もう、行かないと・・・」
腕の中に閉じ込めたまま、そう告げる。肩に預けられていた額が、気のせいじゃなく更に強く押し付けられた。
予約したシャトルの時間がギリギリに迫っている。
本数の少ないオーブ行きのシャトルは、停戦条約を結んだとはいえ政情の落ち着かない現在は更に運行に規制がつけられ、戦前のように自由な行き来を望む一部のコーディネイターの需要にまるで追いつかなかった。何とか予約をとることが出来たのにも、少なからずアスハの力があるのも確かだ。要人専用シャトルを飛ばそうか、というカガリの申し出をアスランはこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない、と断っていた。アスラン・ザラの名前を捨てる人間が要人扱いなど受けるいわれはないのだから。
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