「いくらオーブがコーディネイターを受け入れているとはいえ、貴様のような人間が馴染めるとは思えんな」

 腕を組んで、顔を向けずにイザークは言う。

「そうかな。何とかなると思うけど」

 アスランが言うとイザークは不満そうに視線だけ睨むように向けてくる。

「貴様みたいなできすぎたコーディネイターは、プラントだから普通に暮らしていられるんだ。オーブなんかでやっていけるか!」


 半ば決め付けて言う銀色の髪の少年にアスランは苦笑する。
 オーブへの印象はあのオノゴロへの潜入作戦で抱いたものなのだろうが、どうやら良いものではないらしい。もっともイザークのように激しくナチュラルを嫌っている人間は、同じ空間にナチュラルが当たり前にいるということは想像できないのかもしれないけれど。


「でも、もう決めたことだし」

 今さら翻すことなどできないのだ。自分一人の身の振り方に多くの人間が労を費やしてくれていたし、たとえそういう理由がなかったとしても、いずれはパトリック・ザラの息子という存在を利用したがる人間がでてくるだろうことは想像するに難くなかった。だから、プラントにはいられない。

「貴様の決心はいつも、唐突で勝手なもんだな。オノゴロで待機していたときだって理由は言わないし、ジャスティスを持って逃走したときだって前触れもなくいきなり、だ」
 イザークの言うことはいちいちもっともで、弁解の余地がなかった。どういったら分ってもらえるのだろうと思って思案していたアスランは、イザークが俯いているのに気がついた。


「イザーク・・・?」
「俺には何の力もない、そんなことはわかってる!貴様の身の安全を保証するとか、罪状を不問にするなんてことはできないさ。だがな!」

 強く、言って振り向いたイザークの目が、光を集めて揺れているのがアスランには分った。
 透明な液体が、目尻ギリギリで溢れまいと堪えているのが見て取れて、アスランは困ったような顔をしてそっとその手をイザークの目尻へと伸ばす。


「一言くらい相談するとか、説明するとか、挨拶するとか・・・っ。それくらいしたっていいだろうっ。俺が黙ってたら貴様は、このままプラントを去るつもり・・・っっ」

 言葉の最後は嗚咽に変わって明瞭な音にはならなかった。
 つい、と伸ばした先でアスランの指にポロポロと塩分を含んだ水滴が伝う。


 行くな、なんて言えなかった。それが無駄なことだと分らないほどバカじゃなかったから。
 行かないでくれ、なんて言えなかった。自分の感情に素直になるにはプライドが高すぎたから。
 だから、言葉の分まで涙が溢れる。
 まっすぐと射抜くような強い瞳で見つめたまま。


「ごめん」

 ぽつりと呟いたアスランの言葉にイザークの目は見開かれ、全てを悟ったように静かに伏せた目蓋がひときわ大きく涙の波を打たせた。


 もうここには、プラントには、自分の傍にはいられないのだ、彼は。分ってはいたことだが、改めて言われたことで、現実が身近に迫っていることをイザークは思い知る。










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