『そこにいればわかりますわ』
相手の人物について確かめようとするイザークに、たったそれだけ伝えるとラクスは話を終わらせた。
いればわかると言われても、一方的に待っているのはイザークの性分には合わない。だいたい、迎えに行く立場の人間が相手に気がついてもらうのを待っているというのはおかしな話だ。イライラと足をならしそうになるのを必死にこらえながらイザークは相手の到着時刻もわからないまま、かなり目立つのも覚悟の上で軍服姿でシャトルステーションのゲートの外で立っていた。
戦争が終結し、地球とプラント間の人の出入りは元に戻っていた。いや、もしかしたらそれ以前より増えているのかもしれない。新しい議長のラクス・クラインと地球の代表であるオーブのカガリ・ユラ・アスハとは個人的にも親交があり、互いに考えを認め合い新しい世界を築きあげようとしていたことに、多くの市民が共感しその結果として物的人的交流が増えていた。ここ、アプリリウスのステーションは首都であるだけにその数も多く次々と到着するシャトルから人があふれるように降りてきていた。
これだけ多く人がいる中でその人物は自分を見つけられるのだろうか。イザークは疑問に思う。イザークだってある程度は顔が知られてはいるが相手が見つけられなかった場合にはどうすることもできないじゃないか。せめて相手の名前なりとも教えて貰えたらこんな思いをすることはないのに。
何より目印になる軍服を着ているというのにイザークはいつまでも現れない相手に心配になってくる。
「どういうつもりなんだ」
あの議長は考えていることがよくわからない、イザークの抱く感想は彼女をよく知っているからこそなのだろう。議長としての彼女よりも、一個人としての付き合いの方が長いのだ。彼女はプラントの歌姫で、評議会議長の令嬢で、そしてアスランの婚約者だった。 おとなしいだけの少女かと思っていたら、クライン派を率い、武力を持ってプラントの進もうとしている道を否定した。あのときから油断ならない人間だとは思っている。けれどどうにも彼女の方が一枚上手なのは認めざるを得なくて、今は彼女に協力する立場をとっていた。
だが――。
あまりにも理解不能な言動に振り回されるとなるとそれは不審となりかねない。現にイザークはいっこうに現れる様子のない議長の客に自分は意図的に今日の警護役から遠ざけられたのではないか、そこに何かあるのではないかと思い始めていた。
目の前では相変わらず大勢の人が行き交っている。到着便を告げる液晶の画面がオーブからの便が定刻通りに到着したことを告げていた。ときおり純白の軍服とイザークの容貌に立ち止まって目をとめる人間がいる。イザークは人に見られるのにはなれていたから見られることを気にしないのだが、もしその中に出迎えの相手がいたら、と思うと自分を見てくる人間を片っ端からに見て確認することになった。
そのときイザークの背後から声がかけられる。
「イザーク?!」
人混みの中でも聞き間違えるはずのないその声にイザークは凍り付くように動けなくなる。
まさか。
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