「昨夜はお休みになれませんでしたの?」

 鋭い言葉にイザークは一瞬足を止めて自分の数歩先を行くその人の背中を凝視する。

「目が少し腫れていらっしゃいますわ」

 ピンクの髪を揺らしながら、警護の対象である年下の少女は振り返ってにっこりと笑う。相変わらず油断の出来ない人だ、とイザークは自分の落ち度に内心で舌打ちしながら笑顔を作る。

「仕事で使うデータの整理をしていたら遅くなってしまいました」

 当たり障りのない嘘なんてきっと見え透いているだろうが、本当の理由なんて話す必要もないことだ。仕事に支障があるならまだしもやるべきことはやっている以上、プライベートには関わられるのはごめんだった。

「そうですか。お仕事もほどほどになさってくださいね。貴方がお疲れでいらっしゃると周りの方もみなさん心配なさいますわ」

 夕べ、というよりも今朝方の出来事のあと、結局あのまま眠れなかった。
 最近はあまりアスランとうまくいかない。うまくいくといっても離れ離れでいる以上メールや通信でのやり取りだけなのだが、そのわずかな機会すらギクシャクすることが多かった。

「申し訳ありません、気をつけます」

 頭を下げるイザークにラクスは手をかざしてそれを止める。

「謝る必要はありません。私はただ心配なだけですから」

 そう言われてしまうとイザークはなんと言っていいのかわからなくなる。

「お心遣い、ありがとうございます」

 本当は余計なお世話だと思ったが、さすがにそれを表に出さないくらいにはイザークも大人になっていた。

「そういえば、もうすぐお誕生日ですわね」

 誰のか、と訊きそうになったイザークははっとする。目の前でピンクの少女は相変わらず笑っていた。
 
「どなたかとお約束はなさいまして?」
「いえ…、仕事が忙しいですから」

 他でもない自分自身の誕生日を言われているのだと思いついてしまったら、表情がぎこちなくなるのを抑えられたかどうか自信がなかった。
 
「お誕生日くらいゆっくりなさってくださいね。それくらいの時間は取れますでしょう?」

 今は戦争中ではないのですから、とつけたして議長は会議室のドアの向こうへと消えていった。

 戦争中ではない…、その言葉が警護控え室に向かうイザークの心を占める。戦争は終わったのに自分とアスランはまだ元には戻れない。いや、もう戻れないのかもしれない、とその顔は自嘲気味になった。そんなイザークを部下であるシホ・ハーネンフースは怪訝そうにして隣の席から見つめていた。
 
 
 







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