present
「今年の誕生日は休暇取れたの?」
画面の向こうでアスランが訊く。時折ノイズの混じる回線は地球とプラントという距離と、公の回線じゃなく違法行為すれすれのルートを使ったものであることとを考えればマシな方だった
「貴様には関係ない」
画面に向かって不機嫌を隠しもせずイザークは唸る。
誕生日まであと2週間というその日、真夜中に突然けたたましい呼び出し音で起こされたのだから機嫌よく応対しろというのが無理だった。通信相手が相手だけに取り繕う必要などないから麗しの隊長と一部でささやかれているその顔は仏頂面そのものだ。
「今年こそオーブにおいでよ」
平気な顔をして無神経なことを言うアスランが嫌いだった。
プラントに戻ってこようともせず、地球にすっかり根を下ろした生活をしながら平然と遊びに来いという。まるで自分がプラント生まれであることすら忘れ去ったかのように。
そのくせ、未だに公にアスラン・ザラとしてプラントとかかわることをしようとはしない。今だってオープンの回線を使わず限られた時間しか通信できない方法をとっているくらいだ。
「無理だ、仕事が入っている」
それは嘘じゃなかった。
9月に地球とプラントの間で新たな条約が締結される。その準備のために連日議長を始め評議会のメンバーたちは会議を重ねていて、イザークもそれに関わっていたから月が替わればその忙しさは増すことはあっても時間が出来ることなんてありえなかった。
「…そう」
少し気落ちしたトーンで画面のアスランの顔がゆがむ。
ノイズのせいだ。そう言い聞かせて何もなかったようにイザークは画面を見ている。
その中の人物に変わったところはない、見る限りは。
「貴様はどうなんだ?ちゃんと仕事はしてるのか」
アスランはまたプラントには戻らなかった。
今度こそ戻るのだろうと思っていたイザークは裏切られたような気分になったが、それを表に出すことはしなかった。いくらマヌケなアスランだって同じことを繰り返すほどバカじゃない。ちゃんと今度はなすべきことをするためにオーブの地を選んだのだろうと信じていた。
「うん、ちゃんとしてるよ。カガリには扱き使われてるけど」
苦笑するアスランの顔は穏やかで、あぁ、今度は大丈夫なんだ、とイザークは思う。中途半端な亡命じゃなく自分の意思で選んだのだから、間違えることはなかったのだ。
それがたとえイザークの傍にいる道じゃなくても。オーブの姫を支えることでも。アスランはちゃんと見つけたのだ。
「用がないならもう切るぞ」
画面の端に光るデジタルの表示は午前3時を回っていた。画面に寂しそうな顔が映る。けれどもそれは一瞬だけだった。すぐに時刻を確認して慌てるように謝ってくる。
「あぁ、ごめん。そっちは真夜中だったね。明日も仕事なんだよね、悪かったよ、こんな時間に、おやすみ」
そうしてイザークの返事も待たずに画面は一方的に真っ暗になる。
「ふん、腰抜けが……」
時々しかやり取りしない通信だというのに、おやすみも言わせないアスランがやっぱりイザークは嫌いだと思った。
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