コーヒーフレーバーキス



「ん、・・・っ」
くぐもった声が低く響く。

 シフトの違う二人が見つけた、少しだけ重なる空き時間。
 待機状態だったイザークはメンテナンスをデッキに下りてこなしていた。白い額に汗を浮かべて、心地よい達成感に満たされた顔をしている。
 そのイザークを無理やりリネン室に引きずり込んだ腕があった。とっさに声を上げそうになったイザークの口元を掌で覆うと同時に腰を引き寄せて耳元でささやく。
「しーっ、大人しくしろよ」
その声が誰のものかとわかると同時に、イザークの声もささやきに変わる。
「アスラン、いつのまに・・・」
向き合って顔を見ると、嬉しそうに表情を崩したアスラン・ザラがいた。
「俺が休憩に入る前に、少しトラブったから入りが遅くなったんだ。だからイザークが上がってきてもまだ20分だけ休憩中」
 戦闘時には休みなく働くことになる軍人。
 だから、そうでないときは休養をしっかりとるようにと規定されている。アスランはもとよりきちんとした人間で、しかもマイペースだと思われてる。だから規定どおりにずれ込んだ分まで休んでも誰も何も言わなかった。
 それをいいことに仕事が遅くなりそうなときは、まとまった時間を取れるようにわざと遅れるようにしていたりするのはイザークだけが知っていることだ。
「20分か・・・」
 物足りなさそうに呟くイザークの唇をアスランは強引に塞ぐ。
 ゆっくりおしゃべりしてる暇なんてないとばかりに。
 それにイザークは目をぎゅっと瞑って受け入れて、背中に強く抱きついた。
 すると、キスをしたアスランが何かに気づいたように、ハッとして顔をあげる。
 不思議に思ったイザークは物問いたげに視線をあげると、闇色の髪の少年はなにやら慌てるようにイザークの表情を確かめる。
「どうしたんだ?」
「あ、いや、さっきまでコーヒーを飲んでいたから。イザーク・・・嫌いなんだろう?」
  匂いだけじゃなく、深い口付けでコーヒーの味がしたんじゃないか、と気にするようにアスランは言った。
 すると青い瞳を眇めて、おかしそうにしながら銀髪の少年はアスランの頬をいたずらっぽく抓る。
「別に嫌いじゃない・・・。好んで飲まないってだけだ、それに・・・」
  間近に顔を寄せて、その翡翠の瞳を覗き込む。
「お前とキスするときはいつもコーヒーの匂いがしてるからな。お前の匂いみたいなもんだ」
 言われるほどいつもコーヒーを飲んではいないのだが、イザークに言われるとそれすら嬉しくてどうでもいいことになってアスランの顔が緩む。
「そう、じゃあ、コーヒーの匂いは好きなんだ」
 俺の匂いなんだからね、と強引に決め付けるアスランに「ふん」と肯定してみせると同時にイザークは自分からアスランの唇に自分のそれを重ねる。
 深く、コーヒーの香りを求めるように、舌を絡めていけば熱っぽい舌がそれに応えて、回された腕が強く腰を抱き寄せる。
「ぅ・・・ん・・・」
 甘く漏れる声に、アスランの瞳がゆっくりと閉じられて。
 苦いコーヒーのほのかな香りに酔うように。
 二人の影が溶け合うように重なっていった------。






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