偶然という名の必然



 たぶん、これは偶然だったんだ、と思う。
 そう思わないではいられない。
 これが必然だとしたら、自分はこの先どうすればいいんだろう?

「イザーク?」
ベッドから起き上がって動こうとしないイザークをアスランがシャワールームから呼んだ。それでも一向にやってくる気配のない相手に藍色の髪から雫を滴らせながら、アスランは顔を覗かせて見る。
 自分の内側に残る熱の余韻にイザークはまだ戻れないでいる。
 何度肌を重ねても、ときどきイザークはこんな風になる。この関係を受け入れたのに、ときどき現実が押し寄せてくるんだ、といつだかポツリと言っていたのを思い出し、アスランは苦笑しながら床が濡れるのもかまわずにバスルームから出てきてイザークへ手を伸ばした。
「ほら」
 ようやく届いた声にイザークは顔を上げて差し伸べられて手のひらに自分の手を載せる。
「アスラン…」
 不安そうな声で名前を呼ばれてアスランはその体を抱きしめた。
「大丈夫だよ、イザーク」
「だが」
「大丈夫、君は何も心配する必要はないんだ」
 どこかで間違ってしまったのかもしれない。
 自分たちが愛し合う関係なんて間違いだ、そう誰より強く思っているのに、惹かれあう気持ちは抑えきれずに繊細なイザークを苦しめている。
「世の中に正しいことなんていくつだってある。それと同じ数だけ間違っていることだってある。だから間違いなんてたいしたことないんだよ」
 いつも努力して清く正しい人間であろうとしてきたイザークにとって、自分が非難される立場になるというのは想像よりずっと耐え難いことなのだろう。だからアスランは「大丈夫だ」と言ってやる。そこには何の根拠もないけれど、ただ、自分たちの気持ちが偽りじゃないというそれだけを信じているから。
「俺たちの出会いは偶然だと思うか?」
腕の中でイザークはぼそっと言った。
 同じ時期にアカデミーに入校した二人。ともに名のある親を持つエリートの家を継ぐ者として育てられてきた存在。能力の高さも背負う荷の大きさもあまりに似すぎていて、それだけにことあるごとに比較される関係。そんなことがなければ、きっと過ちを犯すことなんてなかったとイザークは今でも思っているのかもしれない。アスランはイザークに問われてそう思った。
 たとえば入校が一期違っていたら? 例えばアスランが月から戻ってこなかったら?そう思えば確かに偶然が重なった結果なのかもしれないけれど。それに頷くにはアスランが捨てたものはあまりにも大きかった。
「思わないよ」
 躊躇いなく断言したアスランをイザークは真正面から見つめる。
「アスラン…」
「君が偶然だったと思いたい気持ちは分からなくもないけど、俺はそんなふうには思いたくない。すべてが必然だよ、君と俺とのすべては」
 強いまなざしにイザークは目を伏せてアスランの胸に顔をうずめた。
 それを黙って抱きしめたままアスランは声を出した。
「ねぇ、『偶然という名の必然』って言葉もあるって知ってる?」
 イザークが偶然と呼ぶならばそれは自分から見れば必然ということになるんだ、という意味をこめてアスランが言えば腕の中のイザークは小さく頷いたように思えた。
「キス、していい?」
 問いかけたアスランに答える代わりにイザークは自分から唇をそっと押し付けた。







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