鮮やかな色


色彩でいえば、きっと自分のほうが鮮やかなのだと思う。
「どうした?」
自分の下で見上げるイザークにアスランは甘く微笑む。
「イザークって本当に白いね」
半ばうっとりとしながらその頬に唇を寄せてそのまま体を重ねていく。それを甘んじて受けながらイザークは「何言ってるんだ」と口を尖らせた。
イザークは黙っていれば色を感じさせない。肌も白いし髪も光に透けるような銀色だし。なのにイザークのイメージは原色みたいだ、とアスランは思った。
 白い肌にきつく吸いつけて真紅の跡を刻み込みながら、その手のひらで銀色の髪を梳かしてみる。
「白いってばかり言うんじゃない!男が白いって言われたって嬉しくもなんともないぞ」
 顔の上に降ってくる藍色の髪をかき混ぜながら、イザークは文句を言う。でもその口調はいつものイザークとは比べ物にならないほど、穏やかで甘い。
「そう? うらやましいと思うんだけど。男だって綺麗な方がよくないか? それにイザークは色が白くてもイメージは絶対原色だよね。色は・・・赤かな」
「赤? 悪くはないな、俺は好きだ。だがどうして原色なんだ?」
不思議そうな顔をするイザークにアスランは笑うと、突いていた腕を収めてイザークの横に収まった。ぴったりと肌を寄せ合いながらその顔を覗き込む。
「それはイザークの性格だろう。なんでもはっきりしてるからな」
好きも嫌いも、上機嫌も不機嫌も。誰にもはっきりとわかるくらいな喜怒哀楽なのだ。曖昧さなんてどこにもないイザークの性格を色で表すならやっぱりビビッドな原色だろう。
「ふん、そんなもんか。だったら貴様は何色なんだ?」
イザークに問いかけられてアスランはしばらく考えてから「グレーかな」と答えた。
「なんだそれは」
 無機質の象徴のような明るくもない色を指したアスランにイザークの柳眉はしかめられる。
「俺はイザークとは違ってはっきりさせることは苦手だから、白でも黒でもないその間のグレーかな、と思って」
 苦く笑うアスランにイザークはなんだかむっとした。バカみたいに優秀なくせに、変なところで卑屈なこの性格はどうにかならないものか。
「ふん、どうだか」
 勝手に決め付けてからイザークはすぐ横にあるアスランの顔を覗き込む。ぐい、と顎を掴んで自分のほうに向けさせると、その翡翠色の瞳をじっとみつめた。
 深いグリーンが自分を見ているだけでイザークの心は温かくなる。その不思議な気持ちはなんといっていいのかわからないが、こんなに綺麗な瞳をしているくせに自分をグレーだなどというアスランはやっぱり許せない。それにあいまいなどと言っておきながら本当は誰より意思が強いというのをイザークは知っていた。でなければ、自分とのこんな関係なんて成り立つはずがない。
「貴様がそんなこと言ってるなら、俺が決めてやる。そうだな・・・」
言ってイザークはまっすぐにアスランを見つめながらしばらく考えてそれからようやく探し当てたように色の名前を口にする。
「グリーンだな」
「グリーン? 俺の目の色か?」
「それもある。だが俺を赤だというなら貴様はグリーンだろ。緑は赤の補色だからな」
鮮明にみせる効果も大きい組み合わせのことだ。この色の組み合わせは人の目をぱっと惹きつける色とされている。それを知らないアスランじゃなかったから、自然とイザークを見つめる顔が柔らかくなった。
「なんだその顔は」
「いや、補色か。なるほどね」
 イザークが補色の意味をどこまで深く知って選んだのかは知らないが、お互いが相手を引き立てあって人目を惹いているというのは悪くないと思う。
「でもさ」
言うとアスランはにっこりと笑顔を作ってイザークの銀色の髪を指先に絡め取った。
「本質的に君と俺は正反対なんかじゃないのかもしれないね。だってこんな秘密を共有してるんだから」
その言葉にイザークはむっとして、けれど否定する言葉も持たず軽く睨みつけるだけだ。
「別に。好きでやってるわけじゃない」
精一杯強がって言うイザークにクスリと笑うとアスランはその唇に自分のそれをそっと重ねる。
「そういうことにしておいてあげるよ」
そしてまた、鮮やかな刻印を残すために白い肌に口付けをひとつ、また一つと落としていった。









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