「やったぞ!!」
突然、大きな声がしてイザークが自室から出てきた。
2LDKとはいっても、二つある居室はそれぞれがザフト時代の戦艦の二人部屋よりも広かった。遊びにやってきたディアッカに言わせると「さっすがお坊ちゃんズだよな」ということらしいが。
だから、お互いに自分の好きなように相手を気にせずに自室に籠もることは珍しくない。ただ、最低限食事だけはリビングダイニングである共用の部屋で摂ることにするというのが唯一のルールだった。まるで寮生活のようだなと最初は思ったけれど、慣れてしまうとそっちのほうがしっくりくる自分に気がついた。軍での生活というのはたった2年でも自分をだいぶ変えたらしい。
「随分、ご機嫌だね」
部屋から出てきたイザークに俺は声をかける。するとイザークは得意満面で頷いた。
「授業中に解けなかった定理の証明ができたんだ。これを解いたらその場で単位をくれると教授が言ってたやつだ!」
イザークは専門の民俗学以外に幅広く授業を取っていた。戦争で学べなかった時間まで取り戻すように、ほぼ毎日朝から夕方まで何かしらの授業にでている。アルバイトなんか必要がないから、勉強に集中できるというのも理由の一つだった。
「じゃぁもう一単位獲得なんだ」
イザークが取っている授業の単位を全て落とさなかった場合、次年度以降の必修科目を除けば一年目で卒業に必要な単位は全て揃うという話だ。
「あぁ、これで5単位は確実だ」
得意になっていうイザークは、不思議と年上には思えなかった。
ザフトにいたころはみんなどこか背伸びをしていたのだと思う。
戦争という場所に身をおいて、コーディネイターの成人を過ぎたからと大人として扱われていた。
けれど。
いくら能力が優れているからって、子供が大人になるのに必要な時間なんてナチュラルとコーディネイターでそう大差があるとは思えない。純粋に何かに打ち込む時間、自分のためだけに過ごす時間、自分自身を見つめて考える時間・・・そういうものが蓄積されて人は大人になっていくのだと思う。
だから、あのころ身の回りにいた同年代の少年たちはどこか不自然に大人びていた、自分を含めて。プラントを守るために自分が戦うのだ、と。それが戦争を終えて、こうして学生に戻ることで年相応の振る舞いを許されるようになって、初めて、イザークが自分と同じように子供に思えた。
戦争中は常に上を向いていた彼は、自分からすると迷いのない強い大人のように思えたけれど、本当は彼だって一つしか違わないのだ。
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