「ディアッカ、立て」
 見下ろして命令しながらイザークは雪洞から離れてディアッカを振り返る。立ち上がって尻についた雪を払い落としながらディアッカは「何だよ」と意味が読めずにイザークのほうへ歩み寄った。
 どんどんと宿泊場所を離れていくイザークはすっかり日の落ちた雪道にディアッカを誘い出した。そのあたりまで来るとスキーもストックもなく歩くには少々雪が深いくらいだ。
「なぁ・・・」
 ディアッカが声をかけたそのときに、イザークは振り返ると同時にその肩を突き飛ばした。不意打ちを食らったディアッカは思い切り後方の雪の中へ座り込む。
「・・・っ、何だよっ」
 ずっと黙っていたからっていくらなんでもこの仕打ちはひど過ぎる。ディアッカが雪の中から見上げるとイザークは心なしか不満そうな顔をしていた。
「イザーク?」
「子供のころのようにはいかないな」
「は?」
 きょとんとしているディアッカにイザークは口の端をあげて器用に笑う。
「『スノーエンゼル』だ」
「はぁ?」
 子供のころイザークと二人で作ったスノーエンゼル。その後でイザークが迷子になってしまったからあれきり遊ぶこともなかった雪の中に倒れ落ちてエンゼルの形を作るという遊び。
「中途半端な思い出だからいけないんだろう、だからあのときの続きでもしてやろうと思った」
 意味不明な思考回路に、けれどディアッカは噴き出した。イザークらしい相手を思っての行動。嫌な思い出を塗り替えるために、すぐにその場で続きをしようという発想は短絡的ともいえるがイザークらしいことこのうえない。
「なら、雪合戦だって途中ですけど」
 言いながらディアッカは雪だまを作ってイザークへ向けて放り投げた。それはゆるい放物線を描いてイザークの手のひらの中へ落ちる。





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