「ディアッカ、雪の中、夜遅くまで遊んでいると雪女にさらわれてしまうよ」
「雪女?」
「そうだ。雪の降る夜に現れる真っ白な女の人だよ。その人は一人で遊んでいる子供を雪の世界に連れて行ってしまうのだよ」
 熱い湯船に浸かりながら、ディアッカは怖くて無意識に祖父にしがみついた。


 そのときは、それきり寝たら忘れてしまったのだが、真っ白な雪の中で一人になってふと思い出したのだ。


「雪女・・・」
 ぽつりとつぶやいたとたんに、それが現実味を持ってディアッカを捕まえる。
「イザーク・・・」

 イザークは雪の妖精みたいに綺麗だった。
 だから、きっと雪女に見つかったら連れ去られてしまうに違いない。
 イザークがさらわれてしまう!
 小さなディアッカの心はその恐怖でいっぱいになる。

「イザーク、イザーク!!」
 必死になって名前を呼びながらディアッカは走り回って大事な友達の姿を探した。太い幹の影をみても、深い雪の根元を掻き分けても、いっこうにイザークは現れず、やがてディアッカは途方にくれて、それと同時に忘れかけていた恐怖にとらわれる。

 雪女・・・。
「ゆきおんなだ・・・雪女がイザークをつれて行っちゃったんだ・・・」
 自分で言ってしまってものすごく怖くなってくると、褐色の頬に透明な液体が流れ落ちる。
「うぐぅっ、イザ、イザァ・・・」
 どうしよう、イザークが攫われてしまった。自分が雪合戦なんてしかけたからイザークがこんなところに逃げ出してきたのだ。
 自分のせいだ。

 力が抜けた膝を雪の上についてディアッカは泣きべそをかいている。
 どうしよう、大人の人を呼びに行かなくちゃ・・・。
 そう思ってディアッカは立ち上がると森に背を向けて歩き出した。
 やっと別荘にたどり着いたディアッカは家の使用人に向かって泣きながら「イザークが攫われた」というのが精一杯だった。


 結局、イザークは大きな木の洞で眠ってしまっていたのを無事に発見されるのだが、そのころにはディアッカは泣きつかれて眠ってしまっていて翌朝起きたときに隣にイザークが寝ているのにひどく安心してまた泣いて大騒ぎしたという思い出があるのだった。




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