チラチラと控えめに降っていた雪が少しずつ量を増やしてきている。とはいえ、ここは北欧の気候設定のプラントだから、まだそれは本格的なものではなかった。
イザークはブーツに入り込んだ雪が溶けるのも構わずに一生懸命になって走っている。初めての雪はとにかく楽しかった。全部真っ白な庭でディアッカと二人で好きなように遊んでおいで、と言われて飛び上がりそうになった。雪は空から落ちてくるときはフワフワしてるのに手にするとあっという間に溶けてしまう。なのに固めると石みたいに硬くなってぶつけられると痛かった。気温は低くて寒いし、雪にずっと触れてる冷たいけど、それでもどこもかしこも真っ白なのが楽しかった。
二人でいくつもスノーエンゼルも作ったし、雪だるまも大きさを比べて競争した。イザークの作った雪だるまは細長くて肌の白い母上みたいだった。ディアッカの作った雪だるまはまん丸で、本当に雪のだるまみたいだった。
息が上がりながらイザークは木立の入口に辿り着いた。ディアッカがくるまでに隠れよう。そして雪球をたくさん作ってディアッカにぶつけて驚かせてやろう。そう思ってイザークは大きな木の洞を探す。きょろきょろとあたりを見渡して、隠れることができるような大きな木を見つけるとそこへ大急ぎで駆け寄った。早くしないとディアッカが追いついてしまう。わくわくしながらイザークは雪の深い森の入り口で勝手にかくれんぼを始めた。
「あれ…」
雪球を抱えながらディアッカは森の入り口へやってきて初めてイザークの姿が見当たらないことに気がついた。きょろきょろと辺りを見回してみても雪の妖精の姿はみえない。
「イザ?」
名前を読んでみても返事の気配すらない。あたり一面真っ白な中、まるで保護色のイザークが景色の中に隠されてしまったように。
少しずつ、空が暗くなってきて物音すらしない森の入り口でディアッカはしばし立ちすくんでしまう。
ぞわり、と気持ち悪い感触がディアッカの背中を駆け抜ける。
それと同時に思い出すのは以前聞いたことのある地球の日本の昔話。日本びいきの母方の祖父母は遊びに行くといつも地球を懐かしみながらいろんな話を聞かせてくれた。この雪の降る別荘にやってきたときにディアッカが家に帰ろうとせず駄々をこねたときに、真っ暗になってから屋敷に帰ったディアッカを日本式の風呂に一緒に浸かりながら、祖父が言い聞かせたのだ。
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