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雪の中を歩くイザークはまるで保護色の小動物のように、ちらほらと降る雪に隠れているようだった。
吐く息が凍る白さよりも真っ白い肌のイザーク。
銀の髪は光にきらめく雪の結晶のようで、その横顔は雪の妖精みたいだった。
「ディアッカ、ディアッカーっ!」
白いコートを着たイザークは初めて見る雪に興奮を抑え切れないでスノーブーツに雪が入るのも構わずにエルスマン家の別荘の広い庭を駆け回っていた。庭といってもそのまま続く湖も山もエルスマン家のものだったから、子供の目に見える全てが遊びを許された範囲になった。
ピョンピョンと飛び跳ねながら振り返ってイザークは、やってくるのが遅いディアッカの名前を呼んだ。そんなイザークを見ながらディアッカは、手袋を嵌めた手で雪を掬い上げると雪球を作り上げる。そしてそのイザークにめがけて目一杯投げつけた。
べしゃっ。
そんな音がしてイザークのコートに雪球がぶつかって崩れる。柔らかく握った雪球は当たっても痛くないはずだったが、不意打ちにイザークはびっくりした顔をしている。
「雪合戦だよ、知らないの?」
へへん、と笑ってディアッカは次に用意してある雪球を見せる。
「〜〜っ!」
思わぬ攻撃にイザークは顔を真っ赤にさせた。もともと見かけに似つかわしくないほどの負けず嫌いなのだ。やられたままだなんて許せるわけがない。
「このーっ、ディアッカー!」
声を上げるとすぐさま雪球を握ってディアッカにめがけて投げつける。それをディアッカが器用に避けたものだから、イザークは顔を真っ赤にして怒り出した。
「ずるいぞ!俺ばっかり当たって!!」
「これは勝負なんだから、当たる方が負けなんだよ」
何度かこの別荘にやってきたことのあるディアッカは、地元の子供と雪合戦をしたこともあってそれだけ雪の扱いには慣れていた。次々と雪を丸めてポケットにしまうと、慣れずにボロボロと形を作れずにいるイザークに向けて投げつける。微妙に当たらないように外しながら。
「うわっ、くっそ」
まごまごしてると当てられるだけになってしまう。連続して飛んでくる雪球に堪らずイザークはそこから駆け出した。すぐ近くに森があり、手前に木立が見える。そこへ隠れるつもりでイザークは何とか握った雪球をディアッカにめがけて投げつけて一目散に逃げ出した。
「あ、イザ、逃げんのか」
不意に走り出したイザークに、雪球をたくさん作りまくったディアッカが慌てて立ち上がる。するとポケットからコロコロと雪のボールが転がってディアッカはそれを拾おうとしゃがみ直した。その間にイザークは真っ白な雪の中を懸命に走っていく。
「あー、イザー」
ザクザクと雪を踏み分けてイザークが走っていく姿をディアッカは目で追いながらそれでも必死に雪球をかき集めていた。
「もうっ」
なんとかポケットいっぱいに詰め込んでから、逃げ出したイザークを追いかけてディアッカはバタバタと走り出した。
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