「ねぇどうなってんの?」
 一つしかない高性能スコープを覗いているミゲルにラスティがやきもきしながら訊ねる。
 遠くからしか見えないがどうやら少女を含めた三人で話をしているらしい。
「まだ普通」
 修羅場を期待しているような言い方にアスランは呆れてため息をつく。正直言えばイザークがここで修羅場なんて展開になったらやけくその八つ当たり先はおそらくアスランしかないだろうから、できればそれは避けて欲しいところだった。
「ディアッカがいるんだから修羅場なんてならないんじゃないですか」
 もっともらしくニコルは言うが、お祭り好きの二人は聞いてない。
「いくらイザークだって女の子に手を出したりはしないだろうから、殴られるならディアッカ本人だろうな」
「そうなったら手加減なしだろ、きっと。入院沙汰になったりして」
 クククと想像して楽しそうに笑う二人に良識あるニコルとアスランは顔を見合わせた。



「ディアッカさんから聞いてます、好きな人がいてそれがルームメイトだって」
 信じられない話にイザークはディアッカを見た。
「本当なのか・・・」
 まさか見合いの相手のご令嬢に普段から隠していることを言うなんてにわかには信じられない。
「え、いやまぁ成り行きというかなんと言うか・・・」
 情けない様子にイザークは怒るというよりも呆れる気持ちが強かった。女に惚れるとそんなことまで話してしまうような奴だったのか、と。
「そんな風に正直に話してくださるなんて私とても嬉しくて。だから何度もお誘いしてデートしてもらったんです」
「だからといって、見合いの邪魔をする気はない」
 口から出る言葉とは裏腹にイザークの声は低い。
「そしてイザークさんにお会いできてディアッカさんが好きになるのもわかりました。とても綺麗な方なんだもの」
 イザークが見かけだけならその辺の女性よりも美しいのは誰もが認めるところだ。
「でも少しだけ残念でした」
「残念?」
 意味が分からずに聞き返すイザークにヴィオーラは頷いてみせる。
「えぇ。だってディアッカさんは私に打ち明けてくれるくらいにあなたのことが好きなのに、あなたはそうじゃないみたいだから」
 にっこりと笑う少女の顔にイザークは何もいえない。
「ヴィオーラ!」
 言いすぎだと語気を強めるディアッカにヴィオーラは動じるわけでもない。
「だって私なら好きな人がお見合いをしたと知ってその相手と一緒にいたら、絶対に耐えられないもの。何も聞かないでおとなしく引き下がるなんてそれほど好きじゃないってことなんでしょう?」

 婚約者気取りで悠然とさえ見えるヴィオーラの態度にイザークは悔しさがこみ上げてくる。

 そんなわけなかった。
 二人が仲良く並んでいる姿をみて平気なんかじゃない。
 ディアッカの邪魔になってはいけないとどこかで言い訳をしながら、本当は二人の姿なんて、自分以外に優しく笑いかけてるディアッカの姿なんて、見ていたくなくて逃げ出したかっただけだ。
 そしてイザークは思い出す。
 自分の背後で様子を見守っているであろうアカデミーの仲間たちの顔を。結局一日中付き合わせた彼らの手前、今さら引き下がれやしなかった。

「・・・違う」

 キッと顔をあげたイザークの視線はまっすぐにディアッカを捉える。
「俺だってディアッカと同じくらい、いやそれ以上にディアッカのことは好きだ!じゃなきゃバカみたいに一日中追いかけるなんてするものか!」
 げ、一日追いかけられてたのかよ、というディアッカの呟きはイザークには届かない。
「だけど、あなたは逃げ出そうとした・・・・・・違いますか?」
 容赦ない指摘にイザークは拳を握り締めて、真っ直ぐにヴィオーラを向いた。
「確かに、それは認める。・・・エルスマンの家のために見合いしたというのならディアッカのために俺には邪魔できないからと思ったからだ。それはあなたにだってわかるはずだ、家の名前は簡単に捨てられるような軽いものじゃないということくらい」
「だけど、ディアッカさんは最初に私に打ち明けてくれたわ。家と家のためのお見合いの場で家のことなんてまるで気にしないであなたのことが好きだって。家の名前を気にして躊躇するなんてやっぱりあなたはディアッカさんほどには本気じゃないってことだと思います」
 話を聞いてディアッカの馬鹿さ加減にイザークはあきれそうになる。いくらなんでも初対面の相手に自分が好きなのは男だなんて言うのはやりすぎだろう。
「あなたがそれくらいの気持ちなら私はディアッカさんと本気でお付き合いするつもりです。デートしてみて分ったけれど、こんなにいい人はあきらめるにはもったいないから」
要するにルームメイトに会いたかったというのは相手の本気度を知りたくて、事と次第によっては見合いの話を進めてしまうつもりだというのが理由だったらしい。。
 しばらく考え込んでいたイザークはまっすぐにヴィオーラを向くとゆっくりと告げた。




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