「悪いがディアッカのことはあきらめてもらう」
言うと同時にイザークはディアッカに向かって歩き出し、そしてその腕を取ると強引に自分に向けて、そして自分の唇を押し付けた。
「!」
驚いたのはディアッカでヴィオーラは驚くどころか表情を変えずにそれを見ている。
「・・・これが俺の本気の証明だ。これで足りなければ他に思いつかないからあなたの満足いく方法を教えてもらいたい」
しっかりとディアッカの袖を握り締めてイザークは言った。
それにヴィオーラは機嫌を損ねるどころか一転してにこやかな表情になってディアッカを向く。
「やっぱり素敵な人ね」
「ヴィオーラ・・・」
ゆっくりとイザークを見つめながら見合い相手の少女は微笑む。
「まさか目の前でキスされるなんて思わなかったけど、それだけ本気ってことよね。よかった」
にっこりと笑う少女に訳がわからない顔でイザークはディアッカを見つめた。それに答えたのはディアッカではなくてクスクスと笑い出している少女だ。
「さっきの話は冗談なんです、ごめんなさい、試すようなことして」
「冗談・・・」
「だから違うって言っただろ」
ようやく口を利くことを許されてディアッカは弁解を始める。
「これは見合いを断るための作戦なんだよ。ヴィオーラも見合いなんて断るつもりで、両方の親を納得させるためにデートを何回かしてから断ろうって」
「ふふふ、まさか追いかけられるなんて思わなかったけど、それだけホンモノっぽく見えたってことかしら」
話の展開についていけないイザークを取り残してヴィオーラは楽しそうに笑っている。
「・・・だったら、なんで俺にまで黙って・・・」
漸く矛先をディアッカに向けたイザークはぎっとルームメイトを睨みつけた。
「いや、だからそれは作戦のうちで・・・」
しどろもどろになるディアッカに助け舟を出したのは二つも年下の少女だ。
「私が内緒にしてくださいって言ったんです。その方が緊迫感があってよりリアルでしょう?それにどこにスパイの目があるかわからないから敵を欺くにはまず味方からって言うし」
「だからって・・・」
複雑な顔で立ち尽くすイザークにヴィオーラは改めて頭を下げた。
「ごめんなさい、ディアッカさんをお借りして。でもとても楽しかったし、素敵な人ですね」
そしてヴィオーラはイザークに近づくとそっとその耳元で囁いた。
「あなたと今日会わなかったら、私、本気になってたかもしれないな。惜しいことをしちゃった」
にっこり。
話の内容が聴こえなかったディアッカは心配そうにその様子を眺めている。
「あの残り香はわざとなのか」
「あ、気付きました? 気がつかないような相手なら話にならないって思ってたけど、やっぱりすごい人ですね、イザークさんは」
男の人なのにあんな濃度の香りに気がつくなんて。そう笑うヴィオーラにイザークはふん、と笑って見せた。
「どっかのバカはまるで気付いてなかったがな」
「へ?オレの事?」
それにヴィオーラとイザークは声を上げて笑った。一人取り残されたディアッカはなんとか無事に誤解も解けたらしいとほっとした顔になる。
やがてヴィオーラは二人を向いて言った。
「どうもありがとう。お二人を見ていたら私もがんばらないとって思えました。だから二人ともずっと仲良くしてくださいね」
ヴィオーラの抱えている恋を知っているだけにディアッカは優しく頷く。
「ヴィオーラもな。相談ならいつでも乗るから」
「頼まれるまでもない、こいつが浮気心を出さなければな」
「イザーク!」
にべもなく言われてディアッカは無実だと訴える。それにまたイザークとヴィオーラは笑い声をあげた。
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