頭を振ってしがみつく手がガタガタと震えだす。それが信じられない。
「勝手に人を殺すな、俺は死んでなんかない。死んでたまるか!!」
 力を入れた顔が引きつるように痛かった。
「・・・っ」
 息を呑むと弾かれたように顔を上げて濡れたアメジストの瞳がとたんに心配そうに覗き込む。
「大丈夫か、痛むのか? 傷は・・・」
 いつもの心配性の顔に戻って言うのがおかしいのと同時にほっとして、急に痛み出す傷に顔がゆがんだ。
「眉間から頬にかけての裂傷だ。目には及ばなかったから特に心配はないと医者は言っていた」
 包帯の下の状況を説明してやるといくらか冷静さを取り戻して、床から膝を上げてベッドの淵に腰をかける。
「イザーク、いなくならないでくれよ、オレの前から消えたりしないでくれよ」
 膝の上に握った拳をじっと見つめながら思いつめたようにそんなことを言う。
「生まれて初めて怖いと思った。イザークがいなくなるかもしれないと思ったら、すごく怖かった」
「勝手にいなくなるなんて決め付けるな。そんなことあるわけない、俺は死なない、あのストライクを討つまでは死ぬつもりなんかない!」
 この手でストライクを落とす、そう言って白い掌に爪を立ててギリギリと握り締める。
それは傷を受けた礼だけじゃなかった。ミゲルもラスティもユニウスセブンで死んでいった者たちも。全てのコーディネイターの無念を晴らすために、連合を潰すこと、そのためにあのストライクを討つことは今となっては避けて通れない道だ。もっとも何があってもあの機体だけは必ず撃ち落してやると決めているが。
「ディアッカ、怖いなんて情けないこと言うくらいならプラントへ帰れ。負け犬みたいに吼えるくらいなら敵前逃亡でもなんでもしろ。俺は一人になってもやってやる」 




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