なんで、気づかなかった? イザークが死なないなんてどうして言える? いつの間にかイザークを特別だと思っていた。イザークは優秀だから、他の奴とは違うから。でもどうして死なないなんて言える?そんな保証どこにもないのに。
怖い。
ミゲルやラスティが死んだときに感じたのは怒りだった。ナチュラルどもを許さない、この手で討ってやる、そんなことを思った。でもイザークがやられて感じたのは恐怖の感情。戦争への恐怖じゃなかった。イザークを失うかもしれないことへの恐れ。
怖いなんて自分が感じるとは思ったこともなかった。初めてかもしれない。いつだって優秀な人間として選ばれた世界に生きてきた。戦争だってナチュラル相手に負けるはずないから怖いなんて思ったことはなかった。恐怖というのは劣った人間が抱く感情だと思っていたから。
けれど。
イザークを失うことは怖い。イザークが死ぬなんて考えるだけで体が震えてくる。血に濡れたヘルメットごと抱きしめた体はまだ温かかった。でも、死んだら? 爆風で全て吹き飛んだら?
嫌だ。そんなのは嫌だ。絶対にそんなの受け入れられない。イザークを失くしてどうして生きていられる?
なんでアカデミーに入ったんだろう。イザークが選んだからついてきた、そんな理由だった気がする。強い正義感なんてなかった。イザークが行くから当然のようについてきた。でも、それにどんな意味がある? 近くにいるからってイザークを助けられるわけでもない。現に目の前で斬られるイザークに何もできなかった。
イザークを失くすことを今になってリアルに感じるなんて、まるきりバカみたいだ。ナチュラルをバカなんて言ってる自分のほうがよっぽどバカだ。
そうだ、オレはなんてバカなんだ・・・。
気がついたらボロボロ目から溢れてくるものがあった。意思に関係なく次々と止まらない。「怖い」と思ったら止められなかった。怖いと同時に、イザークが生きていたことが現実だとわかったから。安堵の気持ちがそうさせたのかどうかなんてわからない。ただ、味わったことのない気持ちが自分を支配して、そして自分を止められなかった。
イザークを失いたくない。
顔を覆った掌に、温い水滴が止むことなくいくつもいくつも零れていった。
ピピー。
壁の通信モニターが着信を知らせて、だるい体を引きずるようにベッドから立ち上がり受信するとそこにはニコルの姿。
「イザークの治療が終わったそうですよ」
行ってみたらどうですか? ニコルの言葉の最後まで聞かずに部屋を飛び出していた。
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