廊下から低く差し込む光にイザークは視線を上げる。
 片方だけの視界は酷く不安定に感じられて、無意識に睨みつけるようにその人影を睨んだ。青白い、廊下の蛍光灯を背に受けた逆光ぎみのシルエットが誰なのかは確かめるまでもない。
 だからイザークは上げ掛けた視線を元に戻す。掌の中で作られたリネンの皺は、幾重にも重なるだけでイザークを慰めてはくれない。ただ、怒りの感情をそのままに表しているだけだった。
 視線を下ろしたベッドの上のイザークに影が近寄る。自動で閉まった医務室のドアを背に黙ったまま歩み寄り、その人物は床に膝をついた。同じ高さの目線になった赤い軍服の袖が自分に向けて伸ばされてもイザークは拒絶しなかった。
「イザーク・・・」
 頬にそっと手を寄せて、名前を呼ぶ声は気のせいじゃなく震えている。

 痛ましい姿だった。
 白い、美しい顔を覆うのはおびただしい面積の包帯。それだけで受けた傷の酷さが伺える。
「顔が・・・熱い・・・」
 下を向いたままぼそりと洩らしたイザークの言葉に、頬にあった手は白い手をぎゅっと握った。
「もうすぐ・・・点滴が効いてくるよ」

 悔しくて、悔しくて、悔しくて。
 完全に討ち取ったと思った相手にやられたことが、ナチュラル相手に傷を受けたことが、あの瞬間恐怖を感じたパイロットとしての自分が。
 ただ掌を握り締めるしかできない今の自分が悔しくて。震えるほどに握り締めた拳を褐色の掌が労わるように包み込んだ。
 噛み締めた唇に気がついて、その手が口元に添えられる。
「噛んじゃだめだよ」
 諭すような言い方に、怒鳴りつけようとしてキッと視線をあげたイザークは驚きに言葉を失った。
「ディアッ・・・カ・・・?!」
 
 





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