たくさんの命が戦場に散った。
友達も先輩も同僚も上官も。母艦は目の前で燃え尽きて、自分のMSも何度も大破して助かったのはきっと紙一枚もない運の差だったと思う。それだけに、生き残った人間として、死んでいった者たちの分まで力を尽くしていかなければいけないと思った。乞われて議員になったときはそこでできることを精一杯したけれど、それでも軍人としてあの大戦に参加したからには軍人として戦後を、平和を本当のものにしなければいけないと思ったのだ。
ミゲル、ラスティ、ニコル、マシュー、オロール、クルーゼ隊長にアデス艦長、いつも怒鳴りつけていたのにキチンと仕上げてくれたたくさんの整備士たち。次々とまぶたの下にそれぞれの顔がはっきりと浮かんでは消えていく。イザークの目にはそれが見えた。
「嘘、じゃ、ない……。嘘なもんか!」
自分の気持ちは確かなものだった。軍人は性にあっているし、軍人としてしかできないことをやろうと思った。それがザフトレッドの立場を得たものとして、そして生き残った人間の責務だと思った。それは嘘なんかじゃない。
「なら、やり直せばいい」
「やり直すって何を…」
正直な言葉を受けて促すように言うディアッカへ透き通るブルーの瞳を向けて、イザークは困惑を隠さない。
こんな状況でZAFTに戻ることができないというのは誰よりイザーク自信がわかっていた。目の見えない軍人なんてありえないのだから。
「イザークは、自分の選択が間違ってるって思って悩んできたんだろ?」
核心を突くディアッカの言葉にイザークは息を呑む。その手をディアッカはぎゅっと握り締めた。自然とイザークの顔がディアッカを見つめるように上を向く。それが上なのか下なのかはもうイザークにはわからなかったけれど、ディアッカのアメジストの瞳を見たくて気がつくとそうしていた。
「お前ってさ、信じられないけど、今までの人生で間違ったことなんてしたことないだろ?」
ディアッカの口調が苦笑しているのがわかる。
「だから、間違えに免疫のない体がおかしくなったって不思議じゃないよ」
「免疫って…」
「エリート街道まっしぐらで、いつでもその道をトップで突き進んできてたもんな、アスランに会うまではさ」
からかうようなアスラン、の言葉にイザークは一瞬むっとする。
「アイツのことは関係ないだろ」
ぶっきらぼうに言うイザークにディアッカは口元だけにそっと笑みを浮かべた。
「まぁ、結果としてはアスランはいなくなったからイザークがトップになっちまったのは同じことだけどさ。あの大戦だって最後までイザークは正しかったしな」
「それは…」
間違いだとか正しいだとか、そんな簡単な話じゃないというのはディアッカが自らの行動で示していたし、イザークもいろいろと考えてそれを真っ向から否定することはできなかった。けれども自分の信じたことがすべて間違いだったとも思えない。
「誤解するなよ、オレはそれがイザークらしいと思ってるんだぜ。けどそういうふうに生きてきたイザークなのに一番大事なエザリアおばさんに受け入れられなかったって思っちまったんだろう?」
「ディアッカ…」
あぁ、きっとディアッカはまたばかみたいにやさしい顔をして甘やかすように自分を見ているんだろうな、とイザークは思った。いつも辛かったり悲しみに落ちそうになるときにはそうやって傍にいて抱きしめてくれてきた。そしてそれは今も同じ。わざわざ宇宙空間に連れ出してまで、苦しんでいる自分に手を差し伸べて、抱きしめて。
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