エザリアが息子に残した言葉は、自分の信じた道を進みなさい、ということだった。自分の信じた道を突き進んだ結果幽閉される身となったエザリアにしてみれば、それは命を賭した息子へのメッセージだったに違いない。自分は間違ってはいなかった、と。表立ってそれを主張しなかったのはイザークの未来ある立場を思ってのことだったのだろう。もし自分の身の潔白を主張することができていたらエザリアはもっと違う立場になっていたかもしれない。
それだけにイザークは苦しんだのだ。自分のせいで母が命を絶ってしまったのではないか、と。自分がZAFTに戻ったせいで母親の心が不安定になってしまったのではないだろうかとずっとずっと考え続けていた。
「だが…」
ためらうイザークにディアッカはさらに続ける。
「おばさんはああいう風に生きた。進んだ道は結果としては間違いだったかもしれないけど、自分の信じたことに正直だったってことは間違いじゃないさ。それにイザークにもどうすることもできなかったんだ。おまえのせいじゃない。エザリアおばさんの人生はエザリアおばさんだけのものだ。それよりもお前はおばさんの残した言葉を無駄にするつもりかよ?」
それにイザークは沈黙した。
イザークの現在の立場はZAFTの軍人ではない。だが退役したわけでもなかった。医者の診断は回復の見込みを否定するものではなく、治るかもしれないという所見だったためにそのような措置が取られたのだ。メンタルな原因ならばその原因が取り除かれれば元通りになる可能性が高いと思われていて、イザークの能力や人望を惜しむ人たちが軍を去ろうとするイザーク自身を説得したためだ。そして長期療養扱いのイザークを看護するためにディアッカも長期休暇扱いになっている。
「お前が本当にしたいことは何なんだよ?」
「本当にしたい…こと?」
聞き返すイザークのヘルメットの中には、球体になった涙がいくつも無重力に漂っている。光のない空間のはずなのに、なぜかそれはキラキラとプリズムのように煌いてひどく綺麗に見えた。
「今、イザークは何がしたい?」
「俺は…いま…」
抱きしめた腕が緩んでできた空間の中でイザークは見えないはずの目で手のひらをじっと見るような仕草をした。つかみ損ねた何かがそこにあるのだろうか。
「ZAFTに戻ったのは何のためだったんだ? エザリアおばさんを説得したときの気持ちは嘘だったのかよ?」
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