「オレはエザリアおばさんはちゃんとイザークの気持ちを理解してくれいたと思うよ。だからあの言葉を残したんじゃないか、ってね。けどそれは他人が決めることじゃないからさ、イザークが間違ったかもしれないって思うなら、それはそれでひとつの結論としてありだと思ってる」
イザークの真っ暗な世界に、柔らかく優しい光が届けられるような気がした。それはディアッカのイザークへの思い。
「だからね、間違ったなら間違ったでそれを受け入れればいい。そしてそこからやり直すんだ」
「やり直す…」
「生きてるなら何度だってやり直せるんだ」
ディアッカの言葉がイザークの胸に深くしみこんでいく。
「生きてる、なら」
「そうだよ、オレたちは生き残った。だから死んでった奴らの分まで生きなきゃならない」
「そんなことはわかってる…!」
「なら、こんなところで立ち止まってる場合じゃないだろ」
言うとディアッカはイザークを捕まえていた手を放した。ふわふわとその体が宙に漂いだす。
「イザークがしたいことを望む通りにできるようにオレは戻ってきたんだ。だからイザークがやり直したいならオレはそれを手伝うし、その気がないなら無理強いはしないよ」
流されるままに無重力に投げ出されてイザークはその言葉を繰り返しかみ締める。自分は何をしたいのか、本当にやり直すことができるのか。死んでいった者たちに自分は何をするべきなのか。
「ディアッカ…!」
力強く自分を呼ぶ声にディアッカはイザークの後を追いかけた。ワイヤーを放出する僅かな力だけで体に推力が得られる。
「何?」
呼んだ声のトーンでイザークの出した答えなんてわかっていたけれど、敢えてディアッカは聞き返す。
「俺は、ZAFTに戻る、ZAFTに戻ってやることがあるんだ」
そっと近づいて背中からイザークを抱きしめながら、ディアッカは頷いた。
「そう」
短い相槌は、けれどそれだけで十分に嬉しそうだった。
「だけど、どうやったらいいのかわからない」
それに今度こそディアッカは笑った。
「そのためにオレがいるんでしょ。ZAFTに戻ってくるのだって『出直し』だったしな」
ディアッカはウインクしてみせたがそれはイザークには見えないままだ。
「だが、俺は目が…」
「大丈夫、治るよ。医者だって言ってたろ? 見えてるんだって。オレが治るまで付き合ってやるから」
イザークが自分の状況を受け入れて決意をしたならば原因は取り除かれたようなものだ、ディアッカはそう考えていた。そのために宇宙まで来たのだ。イザークを縛り付けてしまっているものをすべて、擬似重力でさえ取り払ってやりたくて。
「俺はもう一度コックピットに座ることができるのか?」
「できるよ、イザークなら」
きっとイザークにできないことなんてない。ディアッカはそう信じていた。それがイザークにも伝わっていってその表情がとても穏やかなものに変わっていく。
「そうか」
「そうだよ」
ぎゅっとイザークは手を握り締めた。それをディアッカは黙ったまま見つめる。
「なぁディアッカ、俺はもう一度もビルスーツに乗りたいが、それ以上に見たいものがあるのに気付いたぞ」
振り向くようにして上を向いたヘルメット越しにイザークの表情を読み取ったディアッカは、その満面の笑みに相好を崩す。
「それってもしかしなくてもオレのことでしょ」
派手に片目を瞑って笑うと、イザークはむっとしたように口を尖らせる。
「ち、違うっ。この宇宙だ。俺はまたこのソラを走りたい」
さっきまでより数段豊かになったイザークの表情にディアッカはその目がすでに見えているんじゃないかとさえ思えてくる。恥ずかしさにほんのりと赤く染まった頬と天空のブルーの瞳。銀の柳眉に桜色の唇。愛しい人がすぐ近くにいるのに、分厚い宇宙服越しじゃ体温すら伝わらなくて、見ているだけじゃ物足りなくなってくる。
「もちろん、そこまで付き合うぜ。けどさ」
いったんそこで言葉を切ったディアッカにイザークは不思議そうに首をかしげる。その仕草は性別のわからない防護服の上からじゃまるきり少女のようにしかみえない。
「けど?」
「今すっげーキスしたいんだよね。シャトルに戻らない?」
言うなり返事を待たずにディアッカは強引にイザークの腕を引いた。巻き上げるワイヤーの速度にあわせて二人の体はシャトルへと吸い寄せられていく。
「ディアッカ!」
マイク越しじゃなく直接耳元で聞こえたような声に、ディアッカはバイザーをこすり付けるようにしてイザークを覗き込んだ。
「俺はお前の笑顔が見たい、笑ってるお前が好きだから」
それにディアッカは破願してキスの代わりにヘルメットを軽くぶつける。コツンと乾いた音がしてイザークが目を細めた。
「馬鹿なことしてないでとっとと戻るぞ」
「あぁ」
エスコートするように手を引いて二人は乗ってきたシャトルへと戻っていく。
イザークのヘルメットの中には漂う涙が宝石のようにキラキラと輝いている。それはまるで宇宙に輝く星のようにイザークの将来を表しているかのようだった。
2006/09/08
あとがき
移転第一弾がこんな話ですみません。
いろいろとどうなんだ、って話ですが。
うちのイザークはすぐ病気になりますね、管理人が病弱だから。
ワンパターンですいません。
おかしーなーと思いつつ、そんなときのディアッカが頼もしくていいかも、と一人で思ったり(笑)
今後ともまったりお付き合いいただければと思います。
どうぞよろしく。
移転第一弾がこんな話ですみません。
いろいろとどうなんだ、って話ですが。
うちのイザークはすぐ病気になりますね、管理人が病弱だから。
ワンパターンですいません。
おかしーなーと思いつつ、そんなときのディアッカが頼もしくていいかも、と一人で思ったり(笑)
今後ともまったりお付き合いいただければと思います。
どうぞよろしく。
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