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「たしかに宇宙は感じるものだな」
イザークはそう言って無重力の空間に漂った。
「でしょ?」
目が見えなくても無重力の空間は体全体で感じられるものだ。
「だがノーマルスーツは動きにくい」
そんなことを言ったイザークにディアッカは笑う。
「仕方がないでしょ、今は民間人なんだから。パイロットスーツは着られないよ」
機能性を重要視したパイロットスーツはイザークにとっては軍服よりも馴染み深いものかもしれない。
「ほら」
ディアッカは言ってイザークの体を軽く押した。それだけで体はくるくると回りだす。「おいっ、こら」
慌ててじたばたを手足を動かすイザークをディアッカは笑う。
「イザーク、かっこ悪すぎ」
「そんなこと言ってもな、お前」
バタバタとクロールでもするかのようにこぎ続けるイザークを一通り笑うとディアッカはその体に繋がるワイヤーを引き寄せた。するとその体はまるで磁石に引き寄せられるかのようにディアッカの腕の中に納まる。
「ディアッカ…」
ほっとしたように声に出すイザークをディアッカは分厚いスーツ越しに抱きしめた。
「やり直そう」
ささやくような声がマイク越しにイザークに届いた。
「何を言ってるんだ…?」
わけがわからずに聞き返すイザークをディアッカはさらに強く抱きしめる。
「気づいてる? さっきからイザーク泣いてるんだぜ?」
言われたイザークは自分の手で確かめようとしてヘルメットをかぶっていることに気がついた。
「泣いてる? 俺が?」
半ば信じられない思いで言うが確かに目じりの辺りに感じられるものがあった。ディアッカの言うことが本当ならばヘルメットの中で水滴が宙に漂っているはずだ。
「ずっと我慢してたんだろ? ここなら誰もいない。好きなだけ泣けよ」
「俺は…そんな…」
それきりイザークの声はしなかった。代わりに透明な液体が次々とブルーの目からあふれ出す。
「エザリアおばさんはお前に信じた道を進めって言ったんだろ?」
要塞に駐留しているイザークの元へ母親の自死を知らせる通信が届いてから、自宅のあるプラントに駆けつけて葬儀一切を終えるまでの間、イザークは涙を見せることはなかった。寝るときまでずっとそばにいたディアッカでさえ泣いているところをみたことがないのだ。その代わりに日々痩せて表情を失っていくイザークがそこにいるだけだった。その理由がエザリアの残した言葉にあるのだろうということはディアッカに予想がついていた。
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