シホがいなくなった部屋でディアッカはさっそく『オレンジデー』について調べた。それを知った瞬間、ダンボールの中で輝くオレンジをみて笑い出した。どういうつもりでこれをもってきたんだろうと思うと、シホという子の性格のよさが改めてわかった。いや、そんなもんじゃない。これはすごいことかもしれない。ちゃんと意味を知って、イザークに食べさせるためのオレンジを自分にもって来るのだから。


「なんだ、これは」

 会議からイザークが戻ってきて、山のように箱に詰められた果物を目にして言った。

「あぁシホちゃんがオレに・・・ていうかオレとイザークに、かな」

 オレンジデーの意味を知っているというのなら、これはきっとそういう意味だ。

「今日はオレンジデーって言うんだって」
「オレンジデー?」

 自分が知らなかったのだから、イザークなんてなおさら知るわけがない。

「バレンタインデーとホワイトデーのつぎにオレンジデーなんだって」
「よくわからんな」

 そういうものに興味のないイザークの感想はその程度だった。
 するとディアッカは箱の中から新鮮な香りに溢れるオレンジを一つ取り出した。

「はい、あげる」

 だまってそれを受け取りながら、イザークは意味がわからないとディアッカを見つめる。
「オレンジデーっていうのは、バレンタインとホワイトデーに続いて、カップルがお互いにオレンジやオレンジ色のものを贈りあって二人の愛を確かなものにする日なんだって」

 説明を聞いたイザークは、表情を変えずにもらったばかりのオレンジをディアッカに投げ返した。

「イザーク?」

 するとイザークはディアッカに向かって腕を組むと悠然と笑いながら言う。

「お互いに贈りあうんだろ? だから俺からもやったんだ」

 するとディアッカも破顔する。

「へぇ、そいつは嬉しいね」

 ぽーんと天井に向けて受け取ったオレンジを投げながら、ディアッカは山のようなオレンジを眺める。

 オレンジデーにオレンジを自分に持ってくるシホはどういうつもりなのか。遠まわしにイザークとのことを当てこすられているようで確かめるのも怖い気もする。いや、これは絶対に聞かない方がいいだろうとディアッカの勘は告げていた。

「とりあえず、これたくさん食べて口内炎治してよ」

 するとイザークは口に手を添えて、渋い顔をした。

「それ、食べるのにまず沁みるだろう・・・」

 それはやだ、と態度で示すイザークにディアッカはおかしくなって、けれど、楽しくて腹を抱えて笑う。いつもは隊員に恐れられているイザークが、沁みるのが嫌でオレンジを食べたくないと駄々をこねているのだ。

「ダメだよ!シホちゃんがくれたものだし、オレンジデーのオレンジだからね」

 そんなの食べなくても、今さら確かめる必要なぞない、と突っぱねそうなイザークにディアッカは先手を打ってシホのことを持ち出したのだ。それでイザークは必要以上に渋い顔をしている。



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