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「おはようございます、副長、これどうぞ」
　
　朝一番に部屋に入ってくるなりシホは抱えたダンボールをディアッカの机の上にどん！と置いた。

「おはよう、シホちゃん。これは？」
　
　箱の中にはオレンジ色も鮮やかな果物が山のように詰め込まれていた。

「オレンジです。私の姉が農学分野のエキスパートで新種を送ってきたんです」
「へぇ、シホちゃんのお姉さんか、会ってみたいな」

　からかいながら、ディアッカは言うがシホはまるで相手にしていない。

「私は副長に姉を会わせたくないです、っていうか、余計なところに触手伸ばしてる暇があったら、ちゃんと副長の仕事してください」

　手厳しいシホの言葉にディアッカは笑いながら、何かやり残した仕事があっただろうかと振り返る。

「オレ、何かしでかした？」

　部下である人間にあけすけに尋ねるこの人のこういうところは悪くないとシホは思う。だが、あまりにも、呆れるくらい隊長大事すぎるのはなんとかならないのだろうか。そのくせあちこちに手を出す軽薄っぷりもやめたらいいのにと思うが、どうにもこの人の性分という言葉で片付けるしかないらしい。

「昨日、隊長はお昼ご飯を残してらっしゃいました。それに紅茶も随分冷ましてから飲まれてたようですし」

　キッ、と視線を向けてくるシホにさすがのディアッカもたじろいだ。自分が見落としていたイザークの変化をシホはさきに気がついていたということのようだ。
　それを、「ちゃんと仕事しろ」というのだから、なかなかシホも言ってくれる。

「それで、オレンジ？　さすが女の子、気が利くね」

　サプリメントでも済む話だが、それはあまりにも味気ないのも確かだった。できるなら新鮮な果物で、しかもおいしいものを食べるのだったら尚更いいに決まっている。

「その発言、男女差別ですよ」

　いつも隊長のことに関しては自分以上に気が利くくせに、とシホは内心で毒づいた。

「あ、そう。ごめんね」

　いつもと変わらず飄々とウインクをするディアッカに、今日これをもってきたことの意味を理解していないことを悟りシホはなんだか余計に面白くない気分になった。
　まったく、自分はなんてお人よしなんだろう。

「今日はオレンジデーですから」
「オレンジデー？」

　聞き慣れない言葉にディアッカは素直に首をかしげた。だが全部教えてやるなんて人が良すぎてただのバカだ、とシホは割り切ってにこやかに笑う。

「えぇ。私は訓練がありますから失礼します」

　




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