「おい、イザークってば」
ようやく態勢を立て直し自分のペースで歩きながらディアッカはイザークに尋ねる。
「出かけるって、仕事どうすんだよ?!」
いくらシホが戻ってきたとはいえ、まだまだやることは残っているのだ。
「帰ってからすればいい」
とにかく歩き続けるイザークにディアッカはますます訳がわからない。職場を離れてするような仕事など何もなかったはずだ。
「帰ってからってどこ行くんだよ」
「いいからお前はついて来い」
そう言うとイザークはエントランスにエレカを回すようにモニタ越しに係員へ指示して自分のロッカーから何やら大き目のバッグを取り出した。
「あぁ、これ持て」
言われて渡されたバッグを抱えるようにして持ちながらディアッカは首を傾げてばかりだ。昼を食べるどころか出かけるなんてどういうつもりなのか、まったく意味がわからない。
やがて回されたエレカのハンドルをイザーク自らが握り、ディアッカは珍しく助手席に座らされた。
ついて来い、と言われたからにはどこか行く先があるのだろうが、ディアッカは何も聞いていない。黙って運転するイザークの横顔を眺めているだけだった。
途中、イザークはフードマーケットに立ち寄った。ZAFTの基地から近いそこはディアッカも何度か利用したことがある。テイクアウトもできる店の料理はなかなかの味だ。ディアッカを車で待たせて店の中に入っていくとイザークはすぐに紙袋にいっぱいの食料を抱えて出てきた。どうやらあらかじめテイクアウトの予約をしてあったらしい。イザークがそんなことをできるなんて思わないし、そんな素振りもなかったから誰かに頼んでいたんだろうか。だとしたらシホだろうなとディアッカはあたりをつけた。
「ねぇ、なんなのー?」
すぐさま運転席に収まったイザークにディアッカは改めて質問する。
「いいからお前は寝てろ」
イザークが助手席で寝ていることはあってもイザークの運転でディアッカが寝るなんてことはあったためしがない。落ち着かない気持ちで仕方なくディアッカは車窓を流れる景色を黙って眺めていた。
そしてしばらくしてディアッカはイザークがどこに行こうとしているのかに気がついた。
「イザーク、もしかして」
顔をあげて自分の横顔を見てくる副官にイザークはつまらなそうに小さく舌打ちをする。
「だから寝てろと言ったのに」
その言い方がかわいくてディアッカは笑う。どうやら行き先は秘密にしておきたくて寝ていろということだったらしい。
視線の先に見えてきたのは、このプラント一大きな公園。たくさんの木々が植えられている。この季節ならば見られる花も多いだろう。
パーキングに車を止めるとイザークはトランクから大きなバッグを取り出した。ロッカーから持ち出してきたものだ。
「ディアッカ、着替えろ」
言って自分はさっさと白い上着を脱いで、アンダーも脱ぐと白いコットンのシャツを羽織る。
「これイザークが持ってきたの?」
バッグの中には二人分の私服。
「あぁ、軍服でいたら人目につくからな」
頷くとイザークは車の中で器用にスラックスを脱いで細身のジーンズに足を通した。ディアッカも黒いシャツとベージュのチノパンを身につける。
「ところでこれって仕事なの?」
すっかり私服を着てしまっておいてそんなことを聞くディアッカにイザークは眉を顰めた。
「今さら聞くな」
その姿にくすくすと笑いながら、ディアッカはイザークの買ってきた食料を手に持った。
「で、これからどーするわけ?」
どう考えてもこれはもう完全に休日の過ごし方だ。予定より早くシホが復帰したのもイザークが呼び戻したのかもしれない。
「桜を・・・」
「え?」
「お前と桜を見ようと思って」
この公園には確かに桜も多くあるだろう。それにしてもわざわざ午後から仕事をサボってまで見に来るほどイザークは桜が好きだったのだろうか。
「桜ならあっちの池の周りだよ」
何度か来たことのあるディアッカは思い出しながらそう言った。そうしてイザークを促すように歩き出す。公園には親子連れや恋人同士などたくさんの人たちが花の季節を楽しんでいた。
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