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「あれ、シホちゃん」
 翌日、いつもと同じように出勤したディアッカは思いもかけない後輩の姿に驚いた。
「おはようございます」
 姿勢も美しく挨拶するシホは利き腕である右手に怪我を負ったのだが、その腕を吊るしていることもない。
「もう怪我はいいわけ?」
 手首より手前に包帯をしてはいるが、ギブスのようなものは見当たらない。
「はい。ご心配をおかけしました」
 見れば顔に負ったはずの傷も見当たらない。プラントの医療技術では傷を残そうという方難しいのかもしれないが。
「今週いっぱいは休むって聞いてたけどよかったの?」
 イザークは2週間は休ませると確かにそういっていたのだ。
「えぇ、家にいてもすることがなくて落ち着かないですし、今が大変なのはわかってますから」
 人に借りを作りたくない性質なのは隊長譲りなのかもしれない。にっこりと笑う少女の姿にディアッカは「頼もしいな」と笑った。

 シホの戦力は大きかった。二人で片付けていたのと同じ量が半分くらいの時間で片付いていく。優秀さとは別の肌理細やかさが二人の仕事をスムーズにしているのかもしれない。そうじゃなくても疲れがたまっているのだ。休み明けのシホのパワーにどこか助けられているのかもしれなかった。
 先に昼食をとらせたシホが部屋に戻ってきた。二人のときは昼抜きなんてことも続いたが、さすがに部下にはきちんと休憩をとるようにと周りの昼休みに合わせて仕事の手を休めるようにと指示していたのだ。
「戻りました、隊長」
 時間きっかりに戻ってきたシホの姿にイザークは頷く。そして「昼でも食べに行く?」と手を止めて伸びをしているディアッカに向いた。
「出かけるぞ」
 急に上官にそう声をかけられたディアッカはいきなりすぎて何がどうなっているのかわけがわからなかった。
「え、出かけるって・・・イザーク?」
 呆然としている副官を尻目にイザークは白い軍服の裾を翻して颯爽と歩き出す。
「お疲れ様です、気をつけて」
 心得顔で見送るシホにさわやかすぎるほどの笑顔を向ける。
「あぁ、後は頼んだ」
 半ば引きずられるようにして部屋を出て行く副官にシホは「いってらっしゃい」とにこやかに手を振って送り出した。




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