「あっ」
 すでに隊員の全てが帰宅してから数時間。残業という範疇を超えて仕事をし続けている二人のいる執務室。ディアッカの情けない声がしてイザークは顔を上げる。
「どうした?」
「・・・やっちゃった・・・」
 ため息をついてすぐにディアッカは作業に戻る。
「イザーク、先に帰っていいよ。オレ、これ終わらせてから帰るから・・・」
 先に帰るといってももう日付は変わっている。それより遅くなるというのは徹夜覚悟と等しく、イザークは眉を顰めた。
「今からやるくらいなら明日にすればいいだろう」
 思いがけずかけられた言葉にディアッカは複雑な顔をする。
「明日は明日で予定あるから伸ばすわけにはいかないんだよ」
 先の先まで考えて計画しているのだ。失敗したからといってそれを狂わすことはできなかった。
「大丈夫、マメにバックアップは取ってあるから致命的じゃない」
 とはいえ、ディアッカの焦りようからして大した事ないと言えるレベルじゃないのもイザークにはわかる。連日の午前帰りでいくらコーディネーターといっても疲労が蓄積しているのは明らかだった。
 だけど自分も手一杯で手伝うとも言い出せない。もどかしさがイザークを苛立たせる。
 しばらく仕事を続けていたイザークは、切りの良いところで手を止めた。
「無理はするなよ」
 それだけ言うとイザークは最終チェックをして席を立つ。
「あぁ、お疲れ」
 没頭して作業に戻るディアッカをちらりと振り返り、イザークはそのまま執務室を後にした。


 翌日朝一番に出勤したイザークが見たのは執務室のソファで横になっているディアッカの姿だった。
「徹夜したのか」
 声をかけると軍服姿のディアッカは目を擦りながら体を起こす。
「あ? ・・・あぁ、帰るのが面倒で」
 ぐしゃぐしゃと金髪をかきまぜてから、眠そうにしてソファから立ち上がる。目の下にクマができていないのはコーディネートされた賜物だろうか。
「・・・」
「顔洗ってくるよ」
 かける言葉がなく黙ったイザークにそう告げると、ディアッカは部屋を後にする。
 一人になったイザークはデジタルに表示されている日付を確認した。
 そしておもむろに通信モニタを立ち上げる。
 つながった先の予想以上に明るい声に苦笑しながら、イザークはある頼みごとをした。






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