「あっ!」
言うと同時に立ち上がる。びっくりしたイザークが見上げると得意そうにディアッカは笑った。
「やろう、花火!」
驚くイザークを尻目に、ディアッカは廊下へ駆け出して行き、家の者にあれこれ言いながらしばらくするともとの和室に戻ってきた。
「ディアッカ・・・?」
鼻を真っ赤にしたイザークが首を傾げるとその手を掴んで立ち上がらせる。
「あっちの方が広いから」
そしてその手を引いて家の奥へ歩き出す。細長い板葺きの廊下は夜の闇にもぴかぴかと磨かれているのがよくわかった。ペタペタと裸足で歩きながら縁側を進むと、やがて行き止まりになる。
「じいちゃんの部屋なんだけど、ここが一番屋根が広いんだ」
言われて見上げると、たしかに庇は他の廊下よりもずっと長く突き出している。そして促されて地面に視線を移すと、濡れていない真っ白な敷石が目に入った。
「あ」
ようやくディアッカの意図していることがわかってイザークの顔がぱああっと明るくなる。
「吹き上げのやつは雨だから無理だけど、手持ちならここだけで足りると思うよ」
そこへ家の者が花火の入った箱を抱えてやってきた。慣れた様子でろうそくに火をつけて、平らな石の上に燭台を置くとイザークを振り返る。
「どれがいい?」
差し出された箱にはカラフルな棒がたくさん入っていた。幾つか抜き出してみると色のついた紙が先端にヒラヒラとついている。
「種類によって燃え方が違うんだ。派手なヤツとかすごい遠くまで火がでるやつとか。色も青とか赤とかたくさんあるよ」
真剣な表情で選ぶイザークに小さく笑うとディアッカは自分の分を手に持って言った。
「全部できるから大丈夫だよ」
それに頷いてイザークは緑色の銀紙で巻かれた花火を選び出した。
「この先に火をつけるんだ。シューッて火花がでたら離れて大丈夫」
見本を見せながらディアッカが花火をかざすと一筋の鮮やかな火が先端から噴出した。
片手でそれを持ちながら危なっかしいイザークを見守るとなかなか火が点かないらしく、おっかなびっくりで何度も蝋燭に向けて花火を差し出している。
「火は上のほうが温度が高いから、そこで点けるとすぐに燃えるよ」
頷くイザークの手の先で鮮やかな炎がシューッと音を立てて燃え出した。
「わあっ」
派手に燃える花火に心底びっくりした顔でイザークは花火を落としそうになった。
「落としたら危ないから!」
ディアッカが注意すると今度は両手でしっかりとそれを持って睨みつけるように花火を見つめている。
「片手で大丈夫だよ」
言ううちにディアッカの一本目は終わり、用意されたバケツにそれを差して次を手に取った。
パチパチと派手な火花が散る2本目はさっきとは違う種類らしい。雨の降らないギリギリの先まで行くと、それをクルクルとまわしてみせる。炎の軌跡が丸く見えて煙がふわふわと空に上がる。イザークもまねてみようとしたら、選んだ花火はパンパンと音は派手だけど炎はあまり鮮やかじゃなくて振り回す前に終わってしまった。
ぽかんとしたイザークをディアッカは笑う。
「ちゃんと選ばないと。こーいう太くて派手なやつがカッコいいんだぜ」
-4-
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