夏休み前のテストが始まる直前、今年は花火をしようとディアッカが言いだした。これまで毎年花火大会を見に行ったり縁日に繰り出したりしていたけれど考えてみたら庭先で花火をしたことがなかったのだ。それは限られた日程で大きな花火があればそちらを優先させて来たからなのだが、今年は花火大会と日程が合わなかった。そしてそれならばと今更のようにお手軽な自家用花火を思い出したわけだ。花火といえば遠くで上がる巨大な火の塊しか知らなかったイザークは驚いて、ディアッカから説明を聞いてからはとても楽しみにしていた。
 そして漸く夏休みに入った週末、ディアッカの別荘を一年ぶりに訪れたその夕方、突然大雨が降ったのだ。
 川に遊びに行って明るいうちに檜風呂に入ってから夕ご飯に出されたそうめんを食べていたら、空が暗くなりあっという間に雨が降り始めた。そしてそれは一向に止む気配がない。夕立だという説明を聞いたところで雨が止むわけではなく、デザートのカキ氷を平らげても雨は降り続けた。

 楽しみにしてたのに。

 明日の夜はディアッカのお祖母さんと蛍を見に行くことになっているし、その次の夜はお祖父さんと縁日に行くことになっている。それが明ければイザークは自宅に帰らなくてはならなくて、花火をするのは今日の夜しかないのだ。
 縁日を諦めれば花火はできるけれど、あのにぎやかで楽しい夜の祭りも年に一度しかないからそれに行かないという選択は難しかった。去年は2個しか取れなかったヨーヨーを今年は5個取るつもりだったし、射的は特賞を今年こそ取ってやるつもりだった。舌が真っ赤になるアンズ飴はそこでしか食べられない物だったし、焼きとうもろこしだって綿菓子だって食べたかった。
 要するに今夜を逃すと庭先での花火は来年までお預けなのだ。

「なぁってば、イザーク」

 いつまでも背中を丸めたままでいるイザークにディアッカが業を煮やして肩に手をかけて振り向かせた。雨が降ったのは自分のせいじゃないのにいつまでも八つ当たりをされているのには頭にきたし、自分だって花火を楽しみにしていたのだ。








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