「さぁ入って頂戴、お夕飯の準備は出来ているから」

  イザークへの質問の回答は得られないまま促されてダイニングに足を踏み入れた。答えをはぐらかすなんてイザークらしくないと思っているディアッカの後ろにイザークはついてくる。

「あれ…」

 いつもとは様子の違うその部屋にさすがにディアッカはすぐに気が付いて思わず声をあげた。それにエザリアは嬉しそうに笑う。席についてから給仕されるはずのスタイルとは違い、言葉の通りにそこにはすでに夕食が用意されていた。

 テーブルの上にはカラフルな皿とそれに負けないくらいたくさんの料理。
 寿司、カレー、サーモン尽くしのカナッペ、納豆、ぺペロンチーノのスパゲッティ、ブルーチーズ、シーフードグラタンに茶碗蒸しに小龍包。

 その無茶苦茶な料理に共通するキーワードに気づいたディアッカは、銀色の髪を耳にかけて心配そうにこちらを見ている少年を見た。

「納豆だけはやめなさいって言ったんだけれど、イザークったら聞かないのよ」

 苦笑するエザリアにディアッカは呆然とその食卓を眺めた。そこにあるのに共通するのは『ディアッカの好きな食べもの』、ということだった。
 納豆の強い匂いが鼻をつく。ジュール家では食卓に並んだこともないだろう異色の食べ物が当然のように置いてあり、香りのいい高級ワインのボトルがすぐ隣に並んでいるのがおかしかった。

「さぁ、お祝いのディナーにしましょう」

 にこやかに促されて信じられない面持ちでディアッカはエザリアを見る。

「お誕生日おめでとうディアッカ」

 エザリアと、イザークの顔を交互に見比べる。それに耐え切れなくなったイザークがポツリともらした。

「お前が誕生祝いをしたことがないと言っていたから、母上に話したらうちでしたらいいと言われたんだ」

 うっすらと頬が赤くなったのは照れているということなのだろうか。ディアッカはにわかに信じられない。あのイザークが、照れている?

「イザークの友人は私の息子のようなものよ。息子のお誕生日は一緒にお祝いするものでしょう?」

 にっこりと笑うその人はイザーク以上にエルスマン家の事情を、ディアッカの肌の色の意味を知っているはずだった。

「嫌だとは言わせないぞ」
 
 照れているのを隠すかのようにイザークが青い目で睨みつける。

「嫌だなんてあるわけないじゃん」
「せっかくの料理が冷めてしまうわ、さぁ」

 促されてディアッカは指定席となっているイスに座る。すると使用人がシャンパンをサーブしてくれた。




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