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「なんなんだよ」
「いいから、18時にうちに来い。それ以前はダメだからな、いいか18時だぞ」

 終業のチャイムと同時に慌てて教科書をカバンに詰め込みながらイザークは念押しを繰り返す。理由がわからずそう言われてディアッカは首を傾げるばかりだ。

「って、今日も自力で帰るわけ?」
「あぁ、用事があるからな。わかったか?」
「18時にジュール邸に行けばいいんだろ」

 わかるもわからないもそのままの内容にディアッカは頷くしかなかった。

「じゃああとでな」

 そうしてイザークは一人でエントランスから走り出していく。

「結局、今日も送りは不要って?・・・つまんねーな」

 朝は昨日と同じに迎えに行き、普段と変わる様子もなかった。別に嫌われたわけではないらしいが、なんだか面白くない。だが、文句を言っても仕方ないというのもわかっていたから今日も時間をつぶす必要になったディアッカは昨日と同じ店に向かうことにした。指定された時刻は家に帰って出直しても十分なだったけれど、早い時間に帰ると家にいる時間が長くなる分だけ余計な嫌な思いをする可能性がある。針のむしろとは言わないけれど相変わらずに居心地のいい家ではないのだ。ジュール邸のほうがよっぽど落ち着くといえるくらいに。




「よく来たな」

 玄関に出迎えに出てきたイザークは当然ながら私服姿だった。

「そりゃ来るって。で、何なんだよ、わざわざ時間指定してまで来いって理由はさ」

 慌しく教室を後にしただけでディアッカには何の理由も説明されていない。だからといって不審がるわけではないのだが、それにしても昨日といい今日といい挙動不審もいいところでいいかげんにその理由を聞かせて欲しいというものだ。

「まぁ入れ」

 促されて足を踏み入れると、広い大理石の玄関ロビーにはもう一人の家人の姿があった。

「こんばんは」

 ディアッカが慣れた様子で挨拶をするとその女性もにこやかに微笑みを返す。

「いらっしゃい、ディアッカ」

 細身のワンピースに身を包んだ姿は、テレビで見かける凛々しい議員の印象とはまるで違う、優しい母親そのものだった。




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