「シャンパンには合わないお料理もあるけれど、いいわよね」
「もちろん。オレ、シャンパン大好きだから」
調子を取り戻したディアッカはウインクをして答える。
「さぁイザーク」
母親に促されてイザークは気取ってシャンパンにグラスを掲げた。
「ディアッカ、誕生日おめでとう」
「おめでとう」
息子の声と母親の声が重なった。
「イザーク、エザリアおばさん、ありがとう」
今度はディアッカが照れながら答える番だった。それにイザークが得意そうに笑う。
「残したら承知しないからな」
「えぇー、いくらなんでも多すぎだろ、これは」
好物とは言っても胃袋には限界がある。テーブルいっぱいの料理の皿は3食分くらいありそうだった。
「そうでしょう?いくつか選びなさいって言っても無駄なのよ、イザークったら聞く耳もたなくて」
息子の様子に母親は楽しそうだ。こんな風に誰かのために一生懸命になるイザークなんて初めてだと明かすと「母上!」とイザークが声を上げて嗜める。それにディアッカは料理を次々と食べながらふと思い出して聞いてみた。
「もしかしてイザーク、昨日シティにいた?」
似たような人間だと思ったのは間違いじゃないらしい。目の前のイザークがバツ悪そうに顔を背ける。
「・・・いろいろとお前の好物を調べてたんだ」
「調べるって?」
そういわれてみれば自分がイザークに好きな食べ物の話をしたことなどほとんどないはずだ。
「お前がよく遊んでいたあたりで聞き込みをした」
「聞き込み!」
まさかそんなことをするとは思わなかった。
しかも温室育ちの坊ちゃまがシティのディアッカの出没していたあたりを歩き回るなどとは。
「誕生日の夕食は好きなものをリクエストしていいというのがうちのルールなのよ」
フォローするようにエザリアが説明してくれた。ディアッカの誕生日を祝うために好物を自分から調べていたなんて。イザークだったらその気になれば人を使って調べることだってできただろうに。
「イザーク・・・」
見ればイザークは食べなれない納豆と格闘している。
「お前の素行の悪さがよくわかったぞ、不良少年が」
ネバネバの糸を引き伸ばしながら言う姿はなんだかおかしかった。
「悪かったね」
悪態をつきながらディアッカは見本を示すように納豆を器用にかき混ぜて炊きたての白米の上に乗せて口の中に運ぶ。見よう見まねでイザークも同じようにすると味を確かめたイザークは眉をしかめた。
「これがうまいのか」
「万能栄養食品なんだぜ」
薬味も卵もきちんと用意されているあたり、ジュール家のシェフがイザークの調査結果をもとに正統派の料理として用意したのだろう。ディアッカにしてみればどの料理も百点満点だった。
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