「あれディアッカ、一人かよ? 珍しいな」

 授業を終えた放課後、学校のエントランスに向かうディアッカにクラスメイトから声が掛かった。

「あぁ、なんかイザークのやつ、用事があるとかで帰っちゃってさ」

 ディアッカが転校してきてから数ヶ月、すっかりこの学校に馴染んだ少年はそのキャラクターから人気者になっていた。
 転校早々のイザーク・ジュールとの一悶着、いきなり構内テストで3位になったこと、そしてそれ以降いつもあのイザーク・ジュールと一緒にいるというあるいみ信じられない言動の割りに、気さくな性格が自然と彼を人気者にさせていた。学校の中にあった階級意識のようなものさえ一部で無にしてしまっているほど、誰彼構わずディアッカには声をかける。その副作用はイザークにも及んでいて、以前はとっつきにくいだけだと思われていたイザーク・ジュールの人柄を周囲に少しずつではあるが理解させていて、彼に対する評価も変わってきていた。

「怒らせたんじゃないのか、お前大丈夫か?」

 イザークの気の短さは相変わらずであちこちで大小の揉め事を起こしてはいるが、ディアッカがその理由を相手に示してやることでだいたいは丸く収まるようになっていた。言葉の足りないイザークの変わりにディアッカが通訳のように彼の言い分を代弁してやるので、もはやイザークとディアッカはセット扱いだった。

「そんなんじゃねぇよ、なんか急いでたんだけど、車は要らないっていってさ」
「乗り心地、悪かったんじゃねぇ?」

 停めてあるエレカの傍へ歩きながらクラスメイトはからかってそんなことを言う。

「んなわけねぇって」

 答えながら、けれどもなんだか心地よくなくてディアッカはエレカのロックを解除すると無言のまま乗り込んだ。同乗できるかと期待していたクラスメイトにはそっけなく手を振ってアクセルを踏み込む。エレカが校門を通り過ぎると自分を置いて帰ってしまったイザークへの文句が口をついてでた。

「なんだよ、送迎初日だっていうのに。片道乗り捨てかよ」

 当然送り役もするつもりでいたディアッカにとってみれば肩透かしを食らった気分だった。エレカでジュール邸に寄って、エザリアおばさんにも見せたかったのに。そんなことを思いついた自分がなんだか湿っぽく思えて、暇になった時間をつぶすために久しぶりに町へ繰り出すことにして行き先をあれこれと候補を絞り込むことにした。



「あれ」

 馴染みの店を久しぶりに訪れて帰ろうとしてディアッカは小さく声をあげた。

「ん?どうかしたかい?」

 耳に派手なリングピアスをいくつも並べているマスターが声をかける。

「あ、いや、気のせいか。知り合いに似た感じのやつがいたと思ったんだけど」
「新しい学校の?」
「あぁ。・・・けどまさかな」

 まさかイザークがこんなところを歩いているとは思えない。ここは治安のよいプラントの中ではあまりいい噂のない街だ。あのお坊ちゃまにはありえないだろう。

「んじゃ、また」
「卒業するまで来なくていいぞ」

 皮肉にヒラヒラと手を振りながらディアッカはその顔を得意げな表情に変える。

「心配いらないって。あの学校なら卒業するよ」

 あの学校というか、あいつがいるならだな、とディアッカは内心で美しい容貌のクラスメイトを思い出していた。





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