「なるほど、いい運転手になりそうだな」

 アクセルを踏み込んで早々助手席のイザークは言った。それにディアッカはまんざらでもない顔をする。素直なほめ言葉が聞けるとは思わなかったが思った以上の賞賛だ。

「それはどうも。ジュール家のお抱え運転手には敵わないけどね」

 何度かイザークについてその車に乗ったことのあるディアッカは思い出しながら言う。するとイザークはふん、と軽く笑い飛ばした。

「初心者がプロに並ぶはずないだろうが。そんなことになったらうちの運転手は即刻クビだ」

 昨日の夕方、車が届いたというディアッカは夜のうちにイザークに翌朝の迎えを予告して本当に朝から車で乗り付けた。納車されて数時間は乗ったのだろうがそれにしても初心者なのは確かだった。ある程度は自動操縦が装備されているとはいえ、メカニカルを好む性格だから全てマニュアルで運転しているらしい。そのわりに乗り心地は悪くなかったからイザークは率直に褒めたのだ。

「ところでディアッカ、誕生日に何か祝いをするのか?」
「誕生祝い?」

 信号が切り替わり、アクセルを踏み込んだタイミングでイザークは聞いた。イザークの家では毎年誕生日のパーティを開いている。イザークにとってみれば小さい頃からずっと誕生日は家族でお祝いをする日という位置づけだった。

「そんなのしないよ。ていうかしたことないし。俺の誕生日は我が家ではなかったことにされてるからさ」

 あっけらかんというディアッカの横顔にイザークは驚きで視線が釘付けになった。

「あ、でも遊び仲間が勝手に祝ってくれるけど、飲み会の口実みたいなもんだな」

 ははは、と笑いながらディアッカのエレカが学校の正門をくぐった。送迎用のゴージャスな車列とは別に悠々と専用パーキングへ乗り入れる。エレカ通学禁止は校則にはなかったものの、生徒用のパーキングがなかったために確認をしたディアッカは渋い顔をした教師を相手に何とか許可と専用スペースを手に入れた。それも成績のおかげだというイザークの指摘にディアッカは上に立つ人間の利を認めた。反抗しているのは子供のうちだけだし、あんなことを続けていたら将来は明るくなかっただろう。

 銀色のスポーツカーはぴかぴかに輝いて校舎の影に置かれていた。
 ディアッカのエレカ通学はその日一日中生徒の間で話題になった。自分でライセンスを取ることに興味津々のエリート層と自分のエレカを持つことに憧れと羨望を抱く下位層の両方から暇さえあれば質問攻めで一日が過ぎたほどだ。




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